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何が本当のエコなのかを考えなければいけない東京工業大学大学院 理工学研究科 機械物理工学専攻教授 矢部 孝

永久に枯渇しないエネルギーがすぐそこに

聞き手:今後のマグネシウム電池や太陽光励起レーザー,淡水化装置の社会での有効性についてお聞かせください。

矢部:まずマグネシウム電池についてです。われわれは点と線と言っていますが,例えばガソリン車なら,どこからも電線はいらない。ガソリンスタンドがあればどこでもいい。周りが荒野でもいいわけです。
 ところが,リチウムイオン電池とかの充電タイプの車になると,充電するためのケーブルが必要です。発電所から電気を送る必要もあります。これを点と線と言っていますが,この違いはものすごく大きいです。
remark54_3 どれぐらい大きいかというと,アメリカの鉄道を例にすれば,サンフランシスコ― サンディエゴ間が2400キロあり,総工費が10兆円と言われていますが,送電設備にそのうちの8割,8兆円が必要です。電気を引くというのは相当大変なことでコストが掛かります。たかだかサンフランシスコ―サンディエゴの1区間でこの金額ですから,これをアメリカ全土をカバーするというのは無理があります。
 充電するにはどれぐらいのコスト・設備が掛かるかというと,大体20万円/キロワットと言われています。50キロワット・時の電池を30分で充電するには,100キロワットの電源が必要ですが,それだけでコストが2000万円です。それも100%の効率で充電できればの話ですが,実際には50%ぐらいです。つまり必要なコストは2倍の4000万円です。それだけコストが掛かっても,50キロワット・時の電池では,200キロほどしか走れません。普通乗用車で500キロを走行するには100キロワット・時が必要だと言われていますが,そのためには1億円近いコストが必要です。とてもあちこちに作る金額ではありません。つまり,充電コストがものすごく掛かる充電タイプの車はあり得ないということになります。
 よく「エコカー」だと言われていますが,これにも注意が必要です。まず火力発電所の発電効率は40%ほどです,そこにリチウムイオン電池の充電効率と放電効率を考慮していくとその効率は10%以下になってしまいます。ガソリン車は30%の効率ですから,ガソリンを燃やしたほうがはるかに効率がいいことになります。「エコカー」というのは,何がエコなのか言うのを考えなければいけません。
 われわれは本当のエコをやりましょうということで,マグネシウムのフィルム電池を研究しています。このマグネシウム電池なら,30グラムのマグネシウムで,スマートフォンが1カ月チャージしなくて使えます。マグネシウムが現在の価格で1キロ300円ですから,9円ほどのマグネシウムでスマートフォンが1カ月使えます。これは夢物語ではなくて,今年の年末にはスマートフォンのカバーに組み込んだマグネシウム電池を試験的に売り出す予定です。生産が追いつかないので限定的なものですが。
 その次にはゴルフカートへの搭載を考えています。冷蔵庫つきでゴルフの最中でも冷たい飲み物が飲めるといったものを来年の初めぐらいに売り出そうと考えています。この電池もすでにでき上がってきています。
 将来的には,電車をこの電池で動かすことも考えています。架線が必要なくなりますから,停電や架線故障で止まることも無くなります。
 さらに研究が進めば,新幹線も走らせることができます。そうなるとパンタグラフがいらなくなりさらに高速にすることができます。時速400キロ近くの高速で走行すると,揺れが原因でパンタグラフと送電線が離れ,その時にアーク放電が起こりパンタグラフが融けてしまいます。この事故はすでにフランスで起こっています。パンタグラフが無くなれば,時速500キロも全然夢ではありません。
 先程携帯電話に毎月30グラムを使いと言いましたが,もし30億人が使ったとすると1年間に100万トンのマグネシウムが必要です。現在の生産量は60万トンですから全然足りません。そこでマグネシウムの製錬のためにレーザーが必要になります。
remark54_4 われわれは今「太陽光でレーザーを作る」と言っていますが,半導体レーザーでも作れます。実際にわれわれの実験では半導体レーザーで,生成効率は20ミリグラム/キロジュールを超えています。つまり,1グラムのマグネシウムを作るのに50キロジュールが必要だということです。1グラムのマグネシウムが発するエネルギーが25キロジュールですから,効率50%で作られているということです。
 今中国で生産されるマグネシウムは石炭を燃やすピジョン法で作られていますが,これは1グラムのマグネシウムを作るのに300キロジュール必要です。6倍違いますからレーザーで作るととても効率が良いということになります。
 われわれは今, アメリカのCOHERENTという会社と協力しています。近い将来には,現在8キロワットで4000万円程掛かっているのをそれを1000万円台にまで下げることが可能です。そうなれば,寿命が15年としてマグネシウム価格は1キログラム132円になり,風力発電で必要な電力の代金を足しても約200円です。太陽光励起レーザーになってくると,キロ100円以下になります。今のマグネシウムの価格がキロ300円ですから十分に採算が取れます。
 事業化する場合,例えば半導体レーザー8キロワット・2000台を使うとすれば,建設費が200億円ぐらいです。ただ電池はすごく高く売れますから,3000億円/年を稼ぐことができます。200億円投資して毎年3000億円がもうかるわけです。投資は最初の一月で元が取れます。利益率が高いので利益を設備投資に回すことで,初期投資も少なく済みます。今はアメリカのロサンゼルスに会社を作って計画を進めています。なぜロサンゼルスなのかと言うと淡水化装置のことも関わっています。世界中に水が足りないところはたくさんありますが,ロサンゼルスもその1つです。ロサンゼルス市は人口400万人,周辺都市で400万人の計800万人が生活しており,1日約800万トンの水が必要になります。これを逆浸透膜の淡水化装置で賄おうとすると,10兆円プラス発電所が30基ぐらい必要になります。ところが,われわれの方式だと,その10分の1で可能です。発電所も不要です。ロサンゼルスに会社の本拠があるのはそういう複合的な要素から来ています。
 2025年には30億人分の水が足りないと言われています。これは1.5兆トン/年ですが,日産にすると40億トン/日。例えば40万トン/日の生産が可能な逆浸透膜のプラントには2800億円の建設費が必要でした。このプラントを1万基造らないと40億トン/日にはなりませんが,これは無理な金額です。
 さらにせっかく造ったプラントが稼働していないこともあります。ある国では政府から「待った」が掛かって使えないのです。なぜかと言うと,逆浸透膜は海水を3入れたら,1だけ淡水が取れます。あとの2は濃縮された海水を捨てることになります。高濃度海水が環境に与える悪影響から,政府が「使うな」と言っているのです。
 われわれの淡水化装置は,10トン/日と小さく人の背丈ぐらいのものを,4億台造ることを考えています。4億台といっても実はたいした数ではありません。世界中には9億台の車が走っていて,毎年数千万台が造られています。たくさんの部品と高度な技術が必要な車がです。それを考えれば不可能な数字ではありません。さらに,この装置はマグネシウムを取るために作られたものですから,高濃度の排水も出しません。環境破壊の心配も無くなります。
remark54_5 今はコバンザメ計画という名称で進めています。コバンザメは大きな魚にくっついて自分では泳ぐ必要がありません。それをまねて先程の逆浸透膜のプラントにくっついていく計画です。海水3から淡水1と,高濃度の排水2が出ます。そのままでは環境が破壊の原因になり稼働させられません。そこにわれわれの淡水化装置をプラントに付加すれば,高濃度排水はゼロです,さらに淡水2が取れます。そうすると,取れる淡水が3倍になります。さらに塩もマグネシウムも取れて,全部販売できます。マグネシウムは1トンが30万円で,さらにそれを電池にすれば,より高く売れるわけです。
 そして,これがレーザーに結び付いたというところが大きいのです。レーザーは無理に結び付けたのではないかと思われるかもしれませんが,実はすごくいいことがあるのです。レーザーによるマグネシウムの生成では,薄いフィルムにすることができます。これを電池に使うことで塩水をほとんど使わない電池が可能になります。また,リサイクルと燃料製造が同時にすることができます。永久に枯渇しないエネルギー獲得できて,きれいな水も取れる。いいことずくめなんです。<次ページへ続く>
矢部 孝(やべ・たかし)

矢部 孝(やべ・たかし)

1950年宮崎県生まれ 1973年東京工業大学工学部機械物理工学科卒業 1973年東京工業大学工学部機械物理工学科助手 1981年大阪大学レーザー核融合研究センター講師 1985年大阪大学レーザー核融合研究センター助教授 1986年西独カールスルーエ原子核研究所客員教授 1988年群馬大学工学部電気電子工学科教授 1995年 東京工業大学大学院 総合理工学研究科 創造エネルギー専攻教授 現在 東京工業大学大学院理工学研究科機械物理工学専攻教授
●研究分野:応用光学,エネルギー
●主な活動・受賞歴等
1999年 英国王立研究所200周年記念講演 2004年日本機械学会・計算力学部門・功績賞,流体科学賞 2006年 国際数値流体力学会名誉フェロー 2007年APACM Award for Computational Mechanics(APACM 計算工学アジア太平洋連合) 2010年IACM Award for Computationnal Mechanics(IACM国際計算工学連合)

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