【重要】技術情報誌『O plus E』休刊のお知らせ

光が我らを導く果てまで ~光の導く交流が研究成果へつながる原動力に~横浜国立大学 理事(総務・研究担当)・副学長 國分 泰雄

同時期に2つの異なる光導波路の研究を推進

聞き手:ベル研究所からの帰国後,ARROW型光導波路を基に追究されるなど,精力的に研究に取り組まれています。

國分:帰国後はARROW型光導波路について追究したところ,この光導波路に強い偏光フィルター機能や波長選択機能が備わっていること,また3次元集積化に適していることが判明したのです。その時,当時修士1年生で,現在はシリコンフォトニクスやフォトニック結晶で世界的に活躍中の横浜国立大学の馬場俊彦教授に,新たにこの光導波路を修士研究のテーマとして与えました。その後,彼と研究を進めていく過程で,多層構造を採用することにしたのです。理由は,光集積回路も高密度集積化のためにはエレクトロニクスの3次元化に合わせる必要があり,ARROW型光導波路では表面が凹凸することなく平らにできる特性により作製しやすいからです。
 そうした中,神奈川科学技術アカデミー(KAST)によるプロジェクトに採択され,1996年からプロジェクトリーダーとして,3次元マイクロフォトニクスプロジェクトに3年間携わることなりました。そこで,ARROW型光導波路を基にした3次元光集積回路を主要研究テーマにして,その回路を製作するための機器を揃えました。このプロジェクトでは,私が以前から知り合いの香港系カナダ人のSai Tak Chu博士が研究員として参加してくれました。彼が博士課程の学生の時に,1991年の国際会議でポスターセッションの発表に対し私が質問したことがきっかけで知り合いになり,その後私と馬場教授(当時,東京工業大学助手)による論文別刷りを送るなど親しい関係を続けていました。Sai Tak Chu博士の参加を機に,彼が中心となってリング半径数μm~数十μmに微小化したマイクロリング共振器の研究にも着手しました。これは,彼が1997年に屈折率の高いシリコンをコアに,クラッドにSiO2を使ってマイクロリング共振器ができることを発表したマサチューセッツ工科大学のHermann A. Haus教授と共同研究していたこと,また同プロジェクトで使用していた光導波路が約35%の高屈折率差導波路であったことがその理由です。マイクロリング共振器は,3次元光集積回路においてバスライン導波路を下層に,上層にマイクロリングを立体光配線した積層タイプを提案し,1998年に実証,1999年には『Photonics Technology Letters』に掲載されています。

聞き手:一方では,アサーマル光導波路の研究も進められていたようですね。

國分:1990年代に研究段階から実用化されようとしていた波長多重通信用の波長合分波器(波長フィルター)の中心波長温度依存性が,将来おそらく問題になる点※に気づいたのをきっかけに,その原因が導波路の光路長温度依存性にあることを見出し,結果として光路長が温度で変化しないアサーマル光導波路の研究にも着手したのです。光路長は,実際の導波路の長さと導波路を構成する材料の屈折率の積で,導波路長も屈折率も温度上昇に伴い大きくなり,光路長も温度上昇で大きくなることが原因でした。これをゼロにする目的で,1988年に特許申請しています。アサーマル導波路の研究は,3次元光集積回路,ARROW型光導波路の研究と並行して進めていました。
 開始した当初は,ヘリウムネオンレーザーを使ってマッハツェンダー干渉計を作り,その中に導波路を入れて光路長の温度係数を測定していました。ところが,研究を進めていくうちに1995年頃からリング共振器を使ってアサーマル光導波路で構成すると,共振波長が温度に依存しないことが分かり,1998年に実現できました。その結果,1999年に電子情報通信学会で論文賞を受賞しています。
 この時に半径はmmと大きいものの,導波路型リング共振器を製作したことから,その後はKASTでの3次元マイクロフォトニクスプロジェクトで用いた誘電体導波路のコアとクラッドの屈折率差が約30%という高屈折率の光導波路を偶然使用したこと,Sai Tak Chu博士がマイクロリング共振器の採用を提案したことによって,マイクロリング共振器の研究へ移行しました。

※テレビで同じチャンネルを選択しても,温度が異なる夏期と冬期では別のチャンネルに設定されてしまうような現象

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國分 泰雄(こくぶん・やすお)

國分 泰雄(こくぶん・やすお)

1975年横浜国立大学工学部電気工学科(工学士)卒業。1977年東京工業大学理工学研究科電気工学科修士課程修了。1980年東京工業大学総合理工学研究科電子システム博士課程修了。同年東京工業大学精密工学研究所助手。1983年横浜国立大学工学部助教授。1984年米AT&Tベル研究所客員研究員(1985年10月まで)。1995年横浜国立大学工学部教授昇任。1996年(財)神奈川科学技術アカデミー「3次元マイクロフォトニクスプロジェクト」プロジェクトリーダー併任(1999年3月まで)。2001年横浜国立大学大学院工学研究院知的構造の創生部門教授。2006年横浜国立大学大学院工学研究院長(工学府長,工学部長兼務)(2009年3月まで)。2009年横浜国立大学理事(総務・研究担当)・副学長(現在に至る)。
●専門のご研究内容:マイクロリング共振器と呼ぶ半径5?20μm程度の微小デバイスを集積化し,大規模集積化可能な波長フィルター,波長選択スイッチや符号化回路などの光集積デバイスを実現。半導体量子井戸を用いた位相変調導波路による高速・低電圧波長ルーティング回路や,波長チャネルを用いる高速信号処理回路の研究を実施。光ファイバーの伝送容量を飛躍的に拡大する空間多重/モード多重伝送用として,マルチコアファイバーとモード合分波器の研究も実施。
●2004年第26回応用物理学会論文賞(解説論文賞)。2005年第3回国際コミュニケーション基金優秀研究賞。同年MOC Award。2008年第2回応用物理学会フェロー表彰「高屈折率差光導波路を用いた光集積デバイスの研究」。2010年IEEE FellowElevation,Citation:for contributions to integrated photonic devices他表彰・受賞。

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