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やりたいことがまだ山ほどあります東海大学 名誉教授 佐々木 政子

回折効率を1年で75ポイント上げる

聞き手:本日はよろしくお願いします。早速ですが,ご経歴を見させていただきますと,東京理科大学をご卒業後に東京大学の生産技術研究所で文部技官,そして同大学で工学博士ご取得ということですが,経緯などお教えいただけますか?

佐々木:私は,外部卒研生として東京大学生産技術研究所の菊池真一教授の研究室で卒業研究をしました。当時は,大学院を受ける学生は必ず国家公務員上級職試験を受ける時代でした。わたしは父がすでに他界していましたので大学院進学はあきらめていましたが,国家公務員試験を受けたら合格し,菊池先生から「技官がいないからどうか?」と声をかけていただいたので,卒研を継続する形で東大生産研に入りました。そのころは,技官は「ヘルプする人」だから,「図書室には5時まで入っちゃいけない」などの制約があった時代です。
 ところが私が一生懸命やるものだから,「佐々木君は図書室に入ってもいいよ」とお許しをいただいたりして,そういうブレークスルーを所内でいっぱいしました。卒研テーマは銀塩写真の感光機構に関する「ゼラチンの臭素受容能力の測定」でした。卒研後,ほかのテーマを探していたところ,重クロム酸ゼラチンの光化学というものに出会いました。重クロム酸ゼラチンというのは,当時,画像形成材料として注目されていた,今でいうフォトレジストの一種ですね。その反応機構を調べようとしたのです。日本化学会で初めて研究を発表した時に,一番前で聞いていらした元菊池研の助手だった先生が「その研究はもう終わった研究だよ」とおっしゃり,発表が終わってから「佐々木君,やることはまだいっぱいあるんだね」と励ましていただきました。

聞き手:すばらしいことですね。

佐々木:それで,引き続き重クロム酸塩感光材料の研究を進めて,最後には位相ホログラムのカラー化を実現させました。銀塩写真は銀が何個も集まってある粒子サイズになり画像ができます。こうした銀塩によるホログラム(振幅ホログラム)は回折効率が理想的にいって33%止まりです。重クロム酸ゼラチンの場合は,分子サイズ,今でいうナノ粒子の画像形成なので位相ホログラム記録ができ,回折効率は理論的に100 %になります。米国Bel l Telephone社のShankoff が重クロム酸ゼラチンを位相ホログラムに適用したのを見て,わたしたちは重クロム酸塩の分光増感によるカラーホログラムを実現しようと考え,卒研生と小瀬研究室の久保田敏弘さんと一緒に研究に取り組みました。1回目に測定した回折効率は3%でした。それを見た小瀬輝次先生が「前途洋々だね」とおっしゃったのをよく覚えています(笑)。それを1年かけて78%まで向上させました。

聞き手:たった1年間で,ですか。

佐々木:そうです。顕微鏡で観察したらちゃんと回折格子ができているのが分かり,これをApplied Opticsに投稿しようと,大みそか間近にもかかわらず久保田さんと一生懸命頑張って論文に仕上げた覚えがあります。その後,トヨタ自動車がディスプレイにホログラムを利用する計画があり,わたしたちの特許を「使わせてほしい」という話が出たのですが,ちょうどバブルがはじけて実用化は先送りになってしまいました。しかし,大日本印刷の人が「これが佐々木さんたちの位相ホログラムです」と言って大仏のホログラムの額を作って持ってきていただいた時は大変うれしかったですね。
佐々木 政子(ささき・まさこ)

佐々木 政子(ささき・まさこ)

1961年,東京理科大学 理学部化学科卒業。同年,東京大学 生産技術研究所に文部技官として入所。1975年,東京大学 生産技術研究所 文部教官助手。1975年,東海大学 情報技術センター専任講師。1976年に東京大学にて工学博士号取得。1978年,東海大学 開発技術研究所助教授と同情報技術センター助教授・同工学部光学工学科助教授を兼任。1987年,東海大学 開発技術研究所教授と同大学院工学研究科を兼任。1997?2002年,東海大学総合科学技術研究所教授・所長付・同大学院工学研究科を兼任。1999?2002年,東海大学 総合研究機構研究奨励委員会委員長。2001?02年,日本光生物学協会会長。2003?07年,日本女性科学者の会会長。2003?07年,東海大学 特任待遇教授。2008年,東海大学名誉教授。現在に至る。専門分野は生命と環境にかかわる光科学。1994年度,東海大学松前賞,2005年度,東京理科大学博士会坊ちゃん賞,2007年度,第1回 日本光医学・光生物学会賞など,受賞多数。ほかに多くの審議会委員や学会理事などを勤める。

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