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第24回 Art in Holography― International Congress on Art and Holography ― ― セントメリーカレッジにて ―

豊かな自然


 1990年夏,ホログラフィーをメディアとしたアートの国際会議が,アメリカインディアナ州,ノートルダムのセントメリーカレッジで開催された。この国際会議はレイクフォーレストカレッジでのISDHのアート部門をさらに充実させたもので,技術面ではなくアートに特化して,この新しいホログラフィーアートを芸術論やメディア論サイドからどのようにとらえ考えるかの,ディスカッションの場としての初めての会議であった。Congressと命名されている通り,出席者全員がアートと関わりのある招待者で構成され,このセントメリーカレッジの芸術学部で教鞭をとっている,アーティストのDouglas E. Tylerが議長となって,このCongressを実現させた。
 セントメリーカレッジはシカゴから東約120 kmのサウスベンドに位置する,カトリック系のリベラル・アーツ・カレッジである。98エーカー(約12万坪)の広大なキャンパスにはワイルドな自然が残され,会期中はその様子をたびたび実感する体験をした。敷地内に現存する大きな緑に囲まれた歴史的な建物(図1(a))はまるで絵本の世界がそこにあるような佇まいである。会議開催中は,広いキャンパス内の緑深い小径(図1(b))を通って,それぞれの会場間を移動しなければならない。
 ある日の夕刻のころである。ここの緯度は日本の函館あたりと同じ位置で,夏の日は沈むのが遅い。夕刻と言っても外はまだ明るさが残るころであった。気づくと小径の側の草むら一面,そして,しだれた大木の枝全体が無数の光の点で覆われ光り輝いているではないか! クリスマスシーズンに都会で見られる芝生や街路樹を光で覆う演出が脳裏をよぎったが,次の瞬間,すぐに「あ! ほたるだ!」と気づいた。いたるところびっしりと光の点で埋め尽くされ,どこを見回しても一面キラキラと不思議な光で輝いているのである。それまで私は蛍を見たことがなかった。あまりの幻想的なシーンに,足を止め,しばし茫然と見入ってしまった。ふと周囲を見ると一緒に歩いていた参加者たちも皆口々に「Firefly!」,「Firefly!」と興奮気味に叫んでいた。蛍は夕刻の一定の時刻に一斉に発光を始めるという。キャンパス内を移動中,まさに偶然の予期せぬ素晴らしい遭遇体験であった。
 敷地内の“自然との遭遇”はこれだけではない。アメリカの公園ではよく見かける野生のリスはもちろんのこと(図2(a)),目を奪われたのは,大きな雁の群れがキャンパスの草むらで寛いでいる様子を見つけたときである(図2(b))。首が長くて大きく,美しい野鳥は渡り鳥のカナダ雁だ。渡りの途中の一時をここで過ごしているのである。人の動きを気にする風もなくのんびりと過ごしている。アメリカの友人宅で時折見かける原寸大の美しく彩色された木彫の鳥の置物を思い出した。置物はまさに実物の美しい色の羽根と姿の再現であり,部屋に飾っておきたいと思う彼らの気持ちが少し理解できたような気がした。

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