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第24回 Art in Holography― International Congress on Art and Holography ― ― セントメリーカレッジにて ―

アーティストによるアートの国際会議


 会議はパネルディスカッションと展覧会で構成されている。出席者全員がアートと関わりのある招待者で構成されている,このCongressの招待の連絡を受けたとき,作品の輸送費や渡航費などの一部補助があることを知って感激したことを覚えている。会議終了後に発行されたREPORT(図3)によると,カレッジからのサポートのほか,Shearwater Foundation(NYのMOH(ホログラフィーミュージアム)創始者のPosy Jacksonによって立ち上げられたホログラフィーアートのための私的基金)から全体の70%近い援助があり,そしてCanada CouncilやGoethe Institute,Danish Art Councilなどからのサポートで実現したようである。この会議には,日本からは筆者のほか,波多野和夫氏(ホロメディア(株))が招待されていた。実は2人とも国際交流基金に旅費の申請をしたのだが,基金は「同じ会議に2人の旅費は出せない。石井はそれまで何度もJapan Foundationから援助されているので,今回は波多野氏を選ぶ。」ということになった。そのようなわけでJapan Foundationもサポートに名を連ねていた。結局,筆者の旅費はありがたいことに会議側が準備してくれ,私は安堵したのだった。

 ISDHと大きく違う点は,美術館のキュレーターの参加がある点であった。ニューヨークのWhitney Museum of American ArtのFilm & Video部門のキュレーター,John Hanhardt(図4)は“Beyond illusion:ホログラフィーとメディアアート”,Madison Art CenterのExhibitionキュレーター,Rene Barilleaux(図5)は“アートの世界におけるホログラフィー:いくつかの重要な懸念”と題した講演をした。Reneは以前MOHのExhibitionキュレーターであった時,任期の最後に筆者の個展“New Experiences in Perception”(1985)を企画してくれた人物である。1997年の“Unfolding Light”と題したMIT Museumからスタートしたホログラフィーのアメリカ国内の巡回展ではゲストキュレーターとして参画している。そしてロンドンからはVictoria and Albert MuseumのキュレーターChris Titterington(図6)が“評論家とキュレーターの視点・・”と題して講演した。ホログラフィーアートを広いアートの視点からとらえた彼らの講演は,実に興味深く貴重なものだった。アーティスト同士のディスカッションでは得られない,外側の視点を学ぶ良い機会となった。
 図7は参加者全員の集合写真である。出席者はイギリス,フランス,ドイツ,デンマーク,アメリカ,カナダ,オーストラリア,日本などの国々から参加していた。講演会も展覧会も手作り感あふれる会議であった。発表者のスライドの準備を手伝うアーティストたち(図8)。波多野和夫(図8左),Andrew Pepper(図8中央)はイギリスのアーティストで,後の1996年に第2回 Art in HolographyをNottingham大学で開催する人物である。図8の右側はMarie Andree Cossette,カナダ・ケベック出身のアーティストである。ホログラフィーを始める前のバックグランドは写真である。

 展示の準備をする会議議長のDouglas Tyler(図9右)の作品はユニークだ(図10)。抽象的な幾何形体が透明なアクリルにデザインされている。幾何形体の一部にホログラムフィルムが貼られ組み込まれる。すると,アクリルの表面に対してホログラムのエリアだけ,表面と垂直方向奥に3次元空間が拡がる。平面の一部分だけ奥行きのある3次元空間が現れるという不思議な視覚体験を,観る者に与える作品である。いつであったか,偶然私はパリのポンピドーセンターで開催された哲学者のコンセプトをもとに企画された非常に独創的な展覧会“物質と非物物質”展を訪れた時である。そこで展示されていた唯一のホログラムとして彼の作品を発見した。いわゆる具象のリアル像の再現でないことが,その展覧会にフィットしていた気がした。
 図11は展覧会の案内表示で,図12は展示会場風景である。“Leaves, still alive”(図13)は,私がこの時に展示した作品である。この銀杏のホログラムはPosyのホログラムコレクションに加わることになり,展示終了後もそのままアメリカに残ることになった。“嫁入りした”数少ない作品の1つである。

 講演の合間の休憩時間は,ときに講演以上に意味ある情報交換の場となる(図14)。会期中,講演会はもちろん,参加者は皆,宿泊も3度の食事もキャンパス内で一緒に過ごすのだが,情報交換とディスカッションに時間が有り余ることはない。

Women in Holography


 図15は参加した女性ホログラフィーアーティストの集合写真である。実はホログラフィー分野で活躍するアーティストには,女性が案外多いのだ。出身国も多様で,アメリカはもちろん,イギリス,ドイツ,オーストラリア,カナダ,日本,スウェーデン,新しく加わった国としてはポルトガルなどがある。アーティストとしてではない関わりとしては,NYのMOHの初代館長Posy Jackson,フランスのMusée de l’holographieの館長Anne -Marie Christakis,サイエンスジャーナリストのDr. Sunny Bains,彼女はBenton先生が亡くなった時,SPIEのNewsletter でSteve Bentonに捧げる特集号のゲスト編集者である。加えるなら,近年,台湾の大学でホログラフィーの夏季集中講義を筆者はほぼ毎年担当していたが,受け入れ講座の教官は2人とも女性研究者である。  2003年,Douglas Tylerはこの同じカレッジのMoreau Art Galleriesで“Leading Lights -Women in Holography”を企画開催した。なかなか面白い発想だと思った。セントメリーカレッジが女子だけのカレッジであることも関係があるやもしれぬが,ホログラフィーアートに多くの女性作家が活躍しているという事実がなせる展覧会だと思われた。筆者も,100 cm×180 cmのマルチカラーレインボーホログラムのフィルムのみをロールにして送り,装丁は現地に任せた。作品返却時に展覧会カタログも送られてきた。出品作家は9人であったが,カタログの各ページのフッターには,現在活躍する女性アーティストたちの名前がデザインされており,数えてみたら49名の名前があった。私はそのほとんどの彼女たちと会議や展覧会で出会っており,会うといつも良い刺激をもらっている。

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