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第21回 ベントン先生のこと

Benton vision


 メディアラボに移籍してからの仕事は,まずCGイメージによるconcave hologram(図10)が知られている。広視域を持った再生像がホログラムの前面の空間に浮かぶホログラムである。さらに,デジタルの動画ホログラフィーにいち早く取り組んでいた。まだコンピューターの処理能力がいまいちで,苦労していたようだった。その間,ニューヨークのMOHが破産し閉館となり,MOHのホログラムコレクションが四散してしまわないようにと,彼の努力ですべてそのままMIT museumに引き継がれることになった。現在,MIT museumのデータベースにアクセスすると,コレクションされている全ホログラムの詳細が出てくる。それを見れば,非常に充実した収集がなされていることが分かる。1996年からは,ベントン先生はCAVS(高等視覚研究所)の所長となった。私がかつてfellowで在籍していたところである。
 そんな折,ベントン先生の病を知った。療養生活が1年くらいになるころ,メディアラボが中心になって,ベントン先生を励ますシンポジウムを開催することが決まった。2003年11月のBenton visionであった。これは私もぜひ出席せねばと開催の数日前にボストンに入った。開催日前夜は学内ですでに到着している出席者たちの交流会が計画されていた。これから交流会に出かけようとしていた矢先,ベントン先生の訃報の連絡が飛び込んできた。予想だにしなかった状況に言葉がなかった。私はとりあえず交流会にでかけた。ホログラフィー関係の多くの知人たちが,アメリカ国内のみならず世界各国から大勢集まってきていた。彼のためのシンポジウムなのにまさか前日に逝ってしまうなんて…。
 翌日,Benton Visionは予定通り開催された(図11)。壇上に立ったMrs. Bentonは「彼は明るいことが大好きな人だったから,どうか沈んだ雰囲気でなく明るくシンポジウムを進めてほしい」と,気丈なあいさつをされたことが一層心に沁みた。本人は手術の経過も良好で,車いすでシンポジウムに参加できると信じて疑わなかったという。しかし,院内感染に罹って病状が急変し,悲しい結果となってしまった。 
 ナチュラルカラーのベントン先生のポートレートホログラム(図12)が展示された。オリジナルはMITの教え子たちが立ち上げた会社ゼブラが制作,それを基に凸版印刷(株)がエンボスホログラムとして製作し,出席者たちに配られた。
 ベントン先生の人物像の紹介文に scientist,engineerに並んでgifted teacherという表現を見つけた。それまでホログラフィーとは別の分野にいた人がMITで彼に出会ってホログラフィー分野に進路変更し,今も研究に勤しんでいる知人を,私も複数知っている。やはり教育者として成せる才能なのかと一人合点した。没後18年とは信じがたい。格段に処理能力の進んだ現在のコンピューターを知ったら,彼ならどんなホログラフィーの研究アイディアを思いつくだろうか?

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