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第21回 ベントン先生のこと

Nerd club in Japan


 ベントン氏を囲んでパーティー(誰でも参加可)に集まるメンバー中心に,「ナードクラブ」が発足する。この頃はメディアラボの教授となって,学生たちとの活発な交流がはじまった時である。MITの学生たちの間で,nerdと言われることがちょっと自慢でうれしいことに受け止められているのでナードクラブと名付けようと本人が発案した。“Nerd”を辞書で引くと,“マニア”とか“おたく”,“専門バカ”まであった(笑)。ベントン先生らしく遊び心満載のネーミングである。さらにMITではこのようなもの(図8)まで作ってしまい,訪日の時のお土産にたくさん抱えて現われ驚いた。私も有り難くいただいた記憶がある。それにしても大量のマグカップはさぞ重たかったろうと無用の心配をしてしまったが,彼の旅のスーツケースの中にはさらに意外なものが入っていることが判明した。彼は枕が変わると眠れない人種で,いつも旅先にmy pillowを持ち歩いているのだという。あるとき堀内宅に泊まり,そのmy pillowを忘れたまま帰国してしまったらしい。電話で送り返そうか訊ねたら,また行くからそのまま持っていてほしいとの返事だった。しかし,pillowは結局堀内宅に残されたままになってしまったらしい。それにしてもmy pillowをいつも持ち歩いているなんて予想外で,なんともほほえましい側面を垣間見た感じだ。

Benton Farm


 ボストンにいた時,ある日,「(ベントン先生が)ウサギを飼いはじめたんだって! ペットとしてじゃなくて毛皮を生産するサイドビジネス(?)を始めたいらしいよ。」とのうわさを耳にした。皆はウサギ農場のことを,ベントンファームと呼んでいた。ずいぶん唐突に聞こえたが,ケンブリッジの郊外は日本の都会とは違って,郊外はすぐに田園風景が広がる。好奇心と遊び心旺盛な人の少し変わった趣味だなぐらいに,私はすぐに納得してしまった。その後のうわさも耳にせず,しばらくして彼が日本を訪れたとき,毛皮ビジネスは成功したのかと,ベントンファームのことを聞いてみた。「いやあ,ウサギが小屋からすぐ脱走してしまって,小屋で飼っているのが難しくあきらめた」との返事だった。小屋は柵を施しただけの自然豊かな環境の放し飼いであったらしく,ウサギは地面の穴掘り名人で,穴を掘ってはすぐ柵の外に脱走してしまい,戻してはまた穴を掘って…の繰り返しで,彼はとうとう断念してしまったらしい。後で聞いた話では,彼はウサギの毛皮の模様に興味があったらしく,独自のパターンを作りたかったとか…。実は,動物の皮膚模様(シマウマ,ジラフ,魚などのパターン)の現れは生物の化学反応の波で決まり,数理モデルで原理を解明する研究が進んでいるらしい(チューリング波,チューリング・パターンによる解明)。ウサギ農場への興味の根源は,ホログラフィー干渉とこの生物の“波”つながりらしいと誰かが言っていたのを聞いて,「なるほど,単なる思い付き(失礼)ではなく博識からの好奇心だったのか」とあらためて感心させられた。毛皮用だけあって,想像以上の立派なサイズである(図9)。 <次ページへ続く>

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