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第11回 キルギスにて

そっくり!


 キルギスは天山山脈の北側,北はカザフスタン,南は新疆ウイグル自治区に隣接した,人口600万強,日本の国土の半分という国である。首都ビシュケクへは日本からはモスクワ経由の便となった。ここへは東京から東に9時間半,接続の悪い待ち時間の後,再び西に4時間戻るという,何とも無駄の多い航路の長旅であった。やっとビシュケクの空港に着いた時は深夜であった。はるばる異国の地にたどり着いたと思ったのは束の間,周りの人々を見て唖然として自分の目を疑った。まるで日本国内のどこかの地方空港に着いたような錯覚を覚えたのだ。周囲は日本人と見まがう顔立ちの人々がいっぱい! この時,周りの人々の視線を感じた。顔立ちは違わないのに明らかにいでたちの異なる我々を,彼らはいぶかしげにジロジロと見ていたのだ。アジアの国々で時々見かける日本人“そっくりさん”が,ここではそこかしこに満ち溢れていた。

星屑


 出迎えを受けて,空港から宿に車で移動。道中はほとんど明かりもない暗い夜道を走る。疲れ切った頭でぼんやりと窓の外に目をやって驚いた。キラキラ輝く満天の星が目に飛び込んできた。星屑とはよく言ったものである。今まで見たことのない密度で星の塵が夜空いっぱいに輝き,自分はその空間の中をただよっているような気分になった。星屑は手を伸ばせはすぐ掴めるようだった。

ハードワーク


 翌日,朝から,次の日のオープニングのために担いで行ったホログラムの展示準備にとりかかる。まず,アクリル工場と照明器具の買い出し。市場に行くと,どれもこれもMade in Chinaだった。日用品を含めほとんどの物品が,中国からの輸入で賄われていた。アクリル工場では,建物内に入るだけで,パスポートの提出を求められた。まるで企業秘密が盗まれては困るといった体である。素材がそろい設営に取り掛かった時には,午後も遅くなっていた。
 ホログラムの設営には時間がかかるのが常だ。とにかく本日中に完成させねばならない。照明工事の電気工はここでは珍しく片言の英語を話した。本人の口から自分はジューイッシュ(ユダヤ教徒)で,いろいろな土地で仕事をしていると話していた。キルギスも多民族の国であることに気づかされた。設営作業は土肥氏をはじめ会議に出席の研究者を巻き込んで深夜までかかった(図4)。これ以降,「石井につきあうと徹夜作業につきあわされる」といううわさが流れているらしい(笑)。
 作業は不自由な英語でコミュニケーションをとりながら進めた。ところが,夜も遅くなり疲れてくると,私はいつの間にか無意識に日本語をしゃべっていたらしく,たびたび注意され笑われた。疲労がたまると不自由な外国語で話すのはしんどい。日本人そっくりの人々と働いているうちに,ふと外国にいることを忘れ,無意識に日本にいると錯覚して日本語をしゃべっていた自分に笑ってしまった。深夜作業が終わり,夕食を取りそびれたことに気づいて,食べ物を求めて外に出た。しかし,レストランも店も何も見つけることができず,キルギス初日は空腹のまま就寝に着く羽目となった。
 翌日オープニングで予期した通り,大統領のアカエフ氏が出席した(図5)。あいさつに,「日本は日(ひ)出国(いずるくに)であり,キルギスは中央アジアの中で,地理的に日本に最も近い国である。これからもっと日本との交流を深めていきたい。そして将来キルギスを中央アジアにおけるサテライトオフィスの役割を果たすような国にしたい」と述べていたことが印象に残った。その後,私は展示したホログラムを紹介し,一緒に撮った記念写真は貴重な思い出である。

図4 レインボウホログラム展示風景


図5 アカエフ大統領(左)とデニシューク氏


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