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ものづくりの才能は実践により培われる三鷹光器(株) 中村 義一

お金は宇宙から降ってくる

中村会長:わたしが「お金は宇宙から降ってくる」(中経出版,2004年)という本を書いたのはそういう意味です。「天文をこういうふうにすると,お金になるんですよ」ということを書きました。この本を経済産業省の若い方が本屋さんで買って省内に持ち込んだら,課長が「面白いな,この人はこういう風にして発明するのか」となって,次は局長が読んで「なるほど,大学を出て研究室に入るよりもすぐに発明ができるやり方だ」となって,そうしたら今度は宮内庁の課長が「自分にも見せてくれ」と。最終的には天皇陛下がご覧になって「この会社に行ってみたい」となりました(笑)。そんなわけで2006年には天皇陛下がいらっしゃいました。宮内庁が「陛下はあなたの本を読まれているので,長話になると困るから短くしてください」と言うのですが「そんなこと私に言われたって,無理だよ」と(笑)。

日本の入札制度の現状

聞き手:三鷹光器さんでは,ほかにどんな分野を手がけていらっしゃるのでしょうか?

中村会長:手がけている主なものは宇宙開発と天文,産業,医療の4つですが,宇宙開発ではスペースシャトルコロンビアにうちのカメラが搭載されました。そのカメラがどのような技術を使っているかというと,天体望遠鏡の赤道儀の駆動装置がみんなここに導入されています。明治時代の天体望遠鏡のものがここに導入されているわけです。決して新型を考えたわけではありません。当時は三菱さんと東芝さん,うちの3社が試作し,最終的に,われわれのものが採用されました。今,月の周りを飛んでいる「かぐや」という衛星にも観測用カメラが載っています。
 天文の方も,昔は長靴をはいて糸川英夫先生と毎日バタバタやっていましたが,今はあまり力を入れていません。うちは天文少年が集まっていますから本当は作りたいのですが,現在入札が厳しくて事業として難しいのです。入札で無理に安モノを作るぐらいならやめようという流れになっています。
 ある意味,日本を駄目にしているのは入札だと思います。単に「安ければいい」というのはおかしいでしょう? 価格だけで比べるならみんなアジア諸国に負けてしまいます。やはりいいものを作らないといけない。だからお役人にモノを見る目がなければいけない。民間に売る場合,いくら安くても性能が悪ければ売れませんから。でも,いくらわれわれがそう叫んでもどうにもならないことで,それなら国ではなく産業の方に力を入れようというわけです。非接触の三次元測定器といえば,「やはり三鷹光器のがいい」ということで,うちの製品を買っていただいています。また,医療用の顕微鏡は,現在海外に年間200台販売していますが,国内では今やっと10台です。一方,日本の大手医療機器メーカーの医療用顕微鏡の販売台数は,国内が年間100台程度で,海外ではほとんどゼロです。

聞き手:どういうことでしょうか?

中村会長:つまり,海外では「性能が悪いものはいらない」ということです。日本でうちの製品を買ってくれるのはどういうところかというと,個人病院です。個人病院は,医療ミスがあればすぐに患者さんが来なくなりますから,できるだけ性能の良いものを入れようとするのです。それくらい使い勝手が良くて性能がいいのに,中小企業というだけで国の入札制度には参加できないのです。

聞き手:それは決められているわけですか?

中村会長:「入札はA級,B級の企業しか参加できない」と,入札要項に書いてあります。われわれのような中小企業は下のC級なのです。A級というのは一部上場企業で,入札無制限です。B級はその下で,だいたい4,500万円以下の仕事をやりなさい,C級の場合は700万円以下の仕事をやりなさい,ということになっています。700万円以下の医療用の顕微鏡なんてありませんから,われわれの製品は買ってもらえません。ただし,そこには例外があって,医師の先生が選定理由書という「あそこのメーカーでなくてはいけない」というものを書けば入札でなくても買ってもらえるのですけれども,そうすると何が起きるかというと「先生,メーカーから金をもらったの?」と言われる。そんな誤解をうけるくらいなら事務に任せてしまえ,ということになる。しかし,事務は器材の善しあしなんて分かりませんから,一流メーカーのカタログを読んで,入札で「じゃぁ,それでいい」となってしまいます。

聞き手:海外はそういうことはなく,きちんと物を見て買ってもらえるということですか?

中村会長:そうです。今,アメリカなどの病院では「うちでは三鷹光器の機械をこれだけそろえて,このようにやっています」とちゃんと宣伝してくれます。アメリカではライカがうちの製品を販売してくれていますが。

聞き手:ライカが代理店になっているのですか。

中村会長:代理店というよりも,うちとライカが共同してやっています。レンズはライカで磨いています。
 大田区(東京都)の町工場の仕事が増えるだろうと思って最初はニコン,キヤノンにお願いしたのですが,「三鷹光器さんのものを作ると,うちの製品が売れなくなるから」と,そんなことで断られました(笑)。

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