セミナーレポート

誰にでもわかる車載画像処理 ―車の周囲を見る技術・見せる技術―日産自動車(株) 下村 倫子

本記事は、画像センシング展2011にて開催された特別招待講演を記事化したものになります。

 本日は,「基礎の基礎」というところからお話しさせていただきます。私は企業から来ましたので,企業が技術を商品にする時にどういうことをしているのかという話を交えながら紹介したいと思います。
 リアビューモニターという商品は,おそらく多くの方が一度は見たことがあると思います。ギアをバックに入れると,車両から見た後ろの画像が出てきます。「カメラがあって画像が映るだけだろう」と思われる方が多いかもしれませんが,実はいろいろな工夫が入っています。今日は装置の中で何をやっているのかということを紹介していきます。
 最初に概要を説明し,その次に弊社のアラウンドビューモニターを例に挙げて具体的に説明します。

表示支援システムでは使いやすさが大事

 自動車にカメラを搭載して実現する技術には,表示支援システムと,画像を認識して何かを支援するというものの,大きく分けて2つがあります。前者には,リアビューカメラやサイドブラインドカメラというものがあります。カメラで映したものを表示することによって,運転手がシステムから支援を受けるというものです。後者は,カメラで撮った画像から走路を認識したり,歩行者を認識したりするものです。今日は前者を中心にお話しします。
 この2つのシステムの目的は明らかに違い,表示支援システムでは見やすい画像や理解しやすい画像を提供することが重要です。認識システムの方は画像を運転者に見せる必要はなく,制御や警報に必要となる検出信号を送るためのものです。ですから,表示支援システムではクルマの運転者がコントローラーの役目を果たし,システム側は運転者の要求に応じて何を表示するかが重要になります。
 では,運転手は何を見たいのか――。主に,死角や見えないところの表示補助,視認が困難なシーンでの運転支援,見落としがちなところの表示補助などが考えられます。例えば,クルマの後方は運転者が後ろを向いて見ないと分からないのでリアビューモニターが必要だったり,サイドブラインドモニターでは「直前直左」と呼ばれる左前側方の運転席から確認しにくい場所をちゃんと見えるようにします。一般のクルマでもだいたいこうした視覚が届かないところにはカメラやミラーが必ず付いています。
 表示支援システムは使いやすく,理解しやすい表示であることが重要です。理解するのに5分かかってしまっては操作が間に合わないので,パッと見てパッと分かる必要があります。例えば,リアビューモニターでは画像を左右反転させています。撮影した画像をそのまま出してしまうと,後ろを見ることを考えた場合,左右逆になってしまうからです。そういうちょっとした工夫が必要なのです。画角についても同様で,広ければ広いほど良いと考えがちですが,180度くらい広い画角を見せてしまうとむしろ歪んでしまって分かりにくかったり,30度ぐらいしか見せないと今度は見たいところが見えなくなってしまいます。リアビューモニターは一般的に135度ぐらいの画角を持っているのですが,ギアをバックに入れて後進した場合,速度はだいたい時速4~5km程度なので,表示する幅はせいぜい5~6mぐらいまであれば良い。そうした範囲が見える画角と,瞬時に理解できるように左右反転するということが,リアビューモニターの工夫の一例となります。
 ここでなぜ,リアビューモニターのお話をしたかというと,カメラがクルマに搭載され,画像を表示するシステムがどんどん出てきた背景には,おそらくカーナビゲーションの普及と後方を見たいというニーズがあったからだと思います。実は1990年代から「後ろを見たい」というニーズはすでにあったのですが,なかなか商品にならず,1998年ぐらいからようやく多くのクルマに載るようになってきました。普及の理由は単純で,カーナビゲーションの普及によってモニターが装備されるようになったからです。リアビューモニターのためだけにカメラとモニターを付けると,コストパフォーマンスが悪いということです。その後,どうせモニターがあるのならば,後ろだけではなくもっとほかにも見たいものがあるということになり,現在のようなさまざまな表示支援システムに発展しました。

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日産自動車(株) 下村 倫子

1991年,東京農工大学 工学研究科 電子情報工学博士前期課程終了。
1991年4月,日産自動車(株) 総合研究所電子情報研究所に入社。
現在,同社モビリティ研究室にて,運転支援に関する研究開発に従事(工学博士)。

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