セミナーレポート

― 「感性・技能を測る画像センシング」その解題と展望 ―中京大学大学院 輿水 大和

本記事は、画像センシング展2011にて開催された特別招待講演を記事化したものになります。

3. 画像センシング事例に学ぶ

 次のようなどこにでもある画像センシングの事例に向かい合って,取り組むべき課題の性質を詳しく考えてみよう。つまり,画像センシングは,いかなる学問的構造を担わされているか,それを考えてみたい。

3.1 心技体の画像センシング ― アスリート運動計測の画像センシング技術論 ―

 スポーツ選手のアスリート能力向上のためには,いかなるコーチングが要請されているのか。コーチや観客はこの目で,つまり生の画像で選手を見るが,選手自身は記録された映像によって間接的にしか自分の姿を観察できない。一方,スポーツ選手本人だけが,運動に伴う身体性の感覚,注意と集中の意識のセンシングができる。これらの絶対的な事実・現実にはアスリート画像センシングを論じる上で少なくとも二つの意味が隠されている。
図2 室伏選手,フィギュアスケート選手の計測 (a)蛍狩りカメラによる計測風景 (b)体軸のビジュアリゼーション (c)頭頂部ぶれの三面表示 (d)ジャンプ,スピンの品質計測

図2 室伏選手,フィギュアスケート選手の計測 (a)蛍狩りカメラによる計測風景 (b)体軸のビジュアリゼーション (c)頭頂部ぶれの三面表示 (d)ジャンプ,スピンの品質計測

 画像映像を綿密な計画の下に徹底的に取得してこれを選手自身に提供する技術を極めることは前者の課題を正面突破する道であり,それが一つ目の意味である。そして二つ目は,コーチングする側からは原理的に身体性の感覚,注意と集中の意識のセンシングをいかなる方法で支援することができるかを後者の課題として受け止めることの必要性である。高精細かつ高階調な画像・映像,カラー画像,3D画像,熱画像,高速度映像など,現在は非常に多様なカメラが身近に溢れているので,前者はもしかすると人の目の画像映像品質を超えたコーチングは現在も提供され始めているともいえるが,問題は後者の課題である。
 スポーツや技能鍛錬の場で古来より言われている,『心技体の画像センシング』がその核心であろうと着想した。画像センシングでは,身体運動は映像という物質的記録としては見え(体の計測)るが,映像の海の中に潜在しているはずであるが見えない身体回転運動の「体軸」を見る(技の計測)こと,そしてさらに身体運動と技を支配する集中意識や注意意識をセンシングすることが,画像センシング課題の真髄におかれなければならない。課題の構造を下に整理しておく。
  • 体は見えるが(体の計測)
  • 見えない「体軸」を見る(技の計測)
  • 身体運動と技を支配する集中意識を計測する(心計測)
図3 眼球運動による注意と集中の意識のセンシング (a)対向カメラ対 (b)視線の動き記録(注視点の履歴) (c)眼球運動映像

図3 眼球運動による注意と集中の意識のセンシング (a)対向カメラ対 (b)視線の動き記録(注視点の履歴) (c)眼球運動映像

緒についたばかりであるが筆者の研究室では,室伏広治選手や浅田真央選手のようなオリンピック級のアスリートに協力を得て画像による運動解析を試みている。心技体センシングの手掛かりとしての画像は,2D画像,3D距離画像,蛍狩りカメラ,動画像,高速度カメラ,カラー計測,時空画像,視線計測(アイカメラ)などである。これらをコンピューター解析して,目標として,身体モーションの詳細な様子やアスリート技術品質評価,さらにはモチベーションや集中意識を高めることを目標としている。
図4 愛知万博2005出展の似顔ロボット絵師 COOPERの作品例(小谷真生子氏)

図4 愛知万博2005出展の似顔ロボット絵師 COOPERの作品例(小谷真生子氏)

 図2は,選手の頭頂部に付けた近赤外LEDを蛍狩りカメラ(FCC)にて3D画像計測して,そこから投擲回転運動の際の回転体軸の動き(技,砂時計型)を計測した。時々刻々と変化する頭頂部LEDパネルの法線ベクトルを運動空間にマッピングしてみると,室伏選手の腰あたりにくびれをもった砂時計状の軌跡を得た。これは,ハンマーをいかに遠くまで投げるかを支える身体のさばき方の技をセンシングした一例と考えている。また,そのときの頭頂部のぶれを三面表示して選手にわかりやすく提示できた。詳細は省略するが,フィギュアスケート選手のジャンプとスピンの3Dリアルタイム計測を行って,同様な可能性を画像センシング技術に見いだそうとしている。
 さて,一方,これら画像・映像という物質的計測とは一線を画して,計測された画像・映像記録から二次的に計測したいさらに多くの指標がある。それらは,さらには,身体運動を背後で支配しまた逆に身体から影響を受けている,「注意・集中の意識の品質の計測こそを実現したい」このような考えから構築した実験環境を示す。図3は,眼前に設置した対向したカメラ対で同期撮影した,選手の眼球動画像から眼球運動(アイカメラ)を抽出し,またそのときにシンクロして得た選手の見ている映像との関係を分析して,そこから選手の集中意識を評価する手掛かりを得ようとしている。画像の空間,時間解像度をよくすれば,固視微動は注意意識のセンシング指標に,また,まばたきも注意集中の意識指標にできる可能性が潜んでいる。

3.2 万博似顔絵ロボットの目 ― 似顔絵ロボットの画像センシング ―

 
図5 似顔絵コンピューターPICASSOの 作品例

図5 似顔絵コンピューターPICASSOの 作品例

 カメラを載せたコンピューターで人の顔を撮影して,ここから顔特徴を見いだして似顔絵を生成してサラサラと描くロボットを筆者の研究室では開発研究している。図4は最もシンプルな線画で似顔絵を描く,愛知万博出展の似顔絵ロボットCOOPERの作品である。これより少々複雑な線画で描いた事例を図5に示す。これは似顔絵システムPICASSOの作品である。もう一つ,図6は3D似顔絵システムが描き上げた3D作品を人工木材でフィギュア化した実例である。2Dから3Dへと徐々にデータは饒舌になっていくが,いずれもその人物の顔らしさが際立つようにデフォルメされて表現されている。顔の画像センシングとして,「似顔絵が本人の顔のたたずまいを巧く表現しているか」,「似ているか」,「そっくりか」,「それが測れるか」,「またその出来不出来がうまく測れるか」これらがこの研究の中で終始大きなテーマになっている。ちなみに図7は,大岡立という似顔絵作家が筆者を描いた作品である。まだまだ似顔絵のプロの技には程遠いコンピューター似顔絵の現実が見て取れるであろうが,そんなことはむしろ些末さまつなことで,似顔絵センシングとでもいうべき,画像センシングの真正な課題の存在は確実である。
図6 3D-PICASSO作品例

図6 3D-PICASSO作品例

 少し試みの事例を紹介する。似顔絵は「見られる人」と「観る人」の関係で出来上がり,十人十色であるはずである。情報科学という意味での本質的な問題はこの辺りにあり,似顔絵生成という顔センシングは物質計測の実力だけではいかんともし難い非常に高度かつ難問である。そこで,何か新奇な着想を探すための試みを紹介する。その一つは,顔輪郭や目鼻口でできるポンゾ図形などのような,視覚固有の錯視現象を顔デフォルメの仕組みに導入して,人が社会生活の中で培ったの深い視覚経験の蓄積を活用できそうである。ポンゾ錯視をいっそう強調するように顔部品の形状と顔部品の位置関係を誇張する仕組みを実装中である。もう一つアイデアもその着想を紹介する。顔を観る人の視線をアイカメラという装置で観察して,計測したこのアイマークパターンと見られる顔の目鼻立ちとの重なりを分析して,この結果でデフォルメする場所も程度も自在に決めることにした。このシステムに実装した対話性こそが,この似顔絵生成という画像センシングが取り組まなければならない課題の核心に位置しているような気がする。

3.3 クルマ生産現場の画像センシング ― H.ベルクソンの意識理論の検査ロボット ―

 自動車,家電,電子部品,食品の工場では,部品や製品のキズの有無,品質の良否が日夜,絶えることなく『画像センシング』されている。検査ロボットに真似させたいのは,検査員の「匠の技能」である。この「匠の技能」の発露の仕組み,正体を解明しないとロバストで柔軟性を備えた検査ロボットは実現できない。
 次のような,身体と技とを駆動する検査員の注意と集中とその持続の意識・ココロの計測が必須である。これは注意と集中の意識の品質が検査の品質を決めるという視点を導入しようというものである。H.ベルクソンが身体と意識の関係を論じた視点に助けられて,検査という心身協調作業のモデル化の基本思想にしようというものである。すなわち,
  • 映像で身体の動きが計測できる。アイカメラで眼球運動が計測できる。(身体の計測)
  • 取得している画像と眼球運動の先導的動きが確認される。これは,発見(粗検査)と判断(精査)の組み合わせ技術の(技の計測,先読み技)
  • 専門検査員は,無駄な動きがない。計測した映像全体を分析して疲労低減の動き(技)をモデル化し,さらに,注意・集中の持続意識の品質を計測したい。(ココロ計測)
という心技体のセンシングへの道筋を得たい。(検査員の『心技体』の計測技術)
図7 作家による筆者の似顔絵 (似顔絵作家 大岡立)

図7 作家による筆者の似顔絵 (似顔絵作家 大岡立)

 注意と集中,その持続の意識の品質が検査の品質である,という検査モデル化(HB 意識モデルによる検査)を構想できる。検査員の動作(空間を占める現象)は見えるが,注意と集中の意識(空間を占めない現象)は見えにくいが間違いなく存在するので,それらの間の濃密な関係も間違いなく存在するからである。
 図8に,検査員を観察する画像センシング用カメラの仕組みを示す。検査員両眼の前に設置した背中合わせのカメラ対があり,内に向かっては検査員の眼球の動きの詳細を記録し,外に向かってはそのカメラ方向の外界の映像をこれと同期して取得することができる。検査における目視動作を支える検査における注意,集中,持続の意識を,眼球運動という生体指標を手掛かりにして副交感神経系的にモデル化する可能性を検討している。
 図9 は,試作中の検査ロボットアームとワーク(台)と得られたエンジン部品の入力画像例とレアな発生頻度な部分を抽出する画像処理結果の例である。
 このロボットの検査作業の様子を外観すると,検査員の頭部と両腕の連動,カメラと検査ワークの相対的関係が検査員の動きに似た行動をみせ,取得した画像系列に対しての注視領域ROIの制御が検査員の注意と集中の意識に連動して運行される。
図8 検査員の眼球運動をみるカメラ,そのように外界を見るカメラ

図8 検査員の眼球運動をみるカメラ,そのように外界を見るカメラ


<次ページへ続く>

中京大学大学院 輿水 大和

1975年,名古屋大学大学院博士課程修了(工学博士)。同年,名古屋大学工学部助手に就任し,名古屋市工業研究所に所属。1986年,中京大学教養部教授に就任。1990年,同大学情報科学部教授。1994年,同大学院教授。2004年,情報科学部長。2006年より情報理工学部長, 2010年より大学院情報科学研究科長に就任。画像センシングや画像処理,顔学,デジタル化理論OKQT,ハフ変換などとそれらの産業応用の研究に従事。IEE,IEICE,SICE,JSPE,JFACE,JSAI/QCAV,FCV,MVA,SSII,ViEW,DIAなどで学会活動中。JFACE副会長,SSII会長,IAIP委員長など。仲間とともに,SSII2010優秀学術賞,小田原賞(IAIP/JSPE,2002,2005),IEE優秀論文発表賞(2004,2009,2010,2011など),技術奨励賞・新進賞(SICE2006,NDI2010)などを受賞。

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