【重要】技術情報誌『O plus E』休刊のお知らせ

何をしたら自分が活かせるかということを常に考え,行動することが大切東京大学 高増 潔

研究というのは,必ず答えがあるわけではない

聞き手:工学を学ぶ学生や若手技術者に向けて,メッセージをお願いします。

高増:結果としては,やってみないとわからないことがたくさんあります。卒論をやる学生は,小学校,中学校,高校,大学の最初のころまで,ずっと答えがあるものを学んできています。ある学生に卒論でテーマを渡したら,「先生は答えを知っているのに意地悪して教えてくれない」という感想をもらったことがありました。しかし,そんなことはなくて,私たちのところでは卒業論文でさえも結果がわからないことをやろうとしているのです。もちろん,私なりにある程度先を見ているつもりなのですが,はずれてしまうこともあります。ですから,学生によっては結果が出ずに終わってしまうことがあります。それに,実験というのは,最初はうまくいかないものです。しかし,優秀な学生は,何がうまくいかないかをきちんと調べ,原因を探って,自分で勉強して,新しいことを考えます。私の研究室では,システマティックにこういうことをやりましょうと言ってそのとおりにやらせることはあまりありません。ある程度から先は自分で考えて,皆で議論をして進めていきます。無駄も多いですが,とても優秀な学生のなかには,その分野の先生になる人もたくさんいますし,本当にすごく新しいことを始める人もいます。東大の先端研究所にいるうちの出身の人は,人間の心臓などの生体系のシミュレーションをやりたいと言って,私は指導できないので,専門の先生とコンタクトを取って指導していただきました。そういうところは大学の良さだと思います。
 グローバリゼーションという言葉は何をもって評価するかが難しくてあまり好きではないのですが,やはり国際性というのは大事です。国外でも国内でもいいのですが,外に出ていろいろな人と話したり,研究以外でもいろいろなことを一緒にやったりするのは有益です。私たちの研究室では,修士の学生でも一度は国際会議に参加しますし,博士の学生は毎年1回か2回は国際会議に出しています。特に同じ分野だと友だちができ,人脈も広がります。
 欧州精密工学会では,国際的な学生のコンテストなどを開催しており,うちの学生もヨーロッパの学生と組んで参加しています。また,アジアでも,韓国や中国,台湾の若い人同士が知り合いになり交流すれば,いろいろ得るところもあると思います。そういう意味ではサポートは良くなっていますし,意欲があれば様々なことにチャレンジできる環境は整ってきています。ただし,学生の中には,何をしたら自分が活かせるかということに関して,必ずしもわかっていない学生はいます。そういったことはしっかり考えたほうがいいのではないかという話をよくしています。
高増 潔

高増 潔(たかます・きよし)

1982年 東京大学大学院工学系研究科精密機械工学専攻 博士課程修了(工学博士) 1982年 東京大学工学部精密機械工学科 助手 1985年 東京電機大学工学部精密機械工学科 講師 1987年 東京電機大学工学部精密機械工学科 助教授 1990~1991年 英国ウォーリック大学 客員研究員 1993年 東京大学大学院工学系研究科精密機械工学専攻 助教授 2001年 東京大学大学院工学系研究科精密機械工学専攻 教授 2020年 東京大学 定年退職 2020年 東京大学名誉教授
●研究分野
精密測定,三次元計測,光計測,ナノメートル計測
●主な活動・受賞歴等
2004年 精密工学会高城賞 2007年 精密工学会論文賞 2007年 ISO/TC213国内委員会委員長(~現在) 2008年 精密工学会論文賞 2009年 精密工学会論文賞 2012年 精密工学会沼田記念論文賞 2013年 精密工学会フェロー 2016年 工業標準化事業表彰 経済産業大臣表彰 2019年 精密工学会論文賞 2019年 精密工学会賞 2020年 精密工学会 会長(~現在)
2020年 精密測定技術振興財団 常務理事(~現在)2020年 東京精密 社外取締役(~現在)

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