【重要】技術情報誌『O plus E』休刊のお知らせ

昔の価値観にとらわれるな。古い常識の真逆のことに正解が潜んでいることがある。慶應義塾大学 斎藤 英雄

研究室選びで入った中島研で磁場の分布の可視化に取り組む

聞き手:理工学分野に興味をもたれたきっかけについて教えていただけますか。

斎藤:まず,昔から算数や理系のものが好きだったということがあります。小学校の頃にはラジオを作るという趣味がはやり,興味をもっていました。ですから,中学の頃から漠然と大学は理工学部に行こうと思っていました。学科選びでは,化学はあまり得意ではありませんでしたし,物理は専門にやりたいと思いませんでした。そうかといって,機械工学は油にまみれるイメージがあったので,電気回路や無線,通信といった電気工学を選びました。
 電気工学科では,電気工学の基礎となるような電磁気学をはじめ,物性工学,材料工学,制御工学などの勉強をしました。卒業前に研究室選びをするのですが,1985年当時は通信が非常に注目されていた業界で,情報通信関係の研究室が人気でした。人気のある研究室は比較的楽しそうな雰囲気を醸し出していたのですが,私が選んだ研究室は,非常に厳しいけれども,学生生活最後の1年間をものすごく充実して過ごさせてやるという先生が率いているところでした。それが私の師匠となった中島真人先生だったのです。
 中島研では,光やホログラフィー,コンピュータトモグラフィーを扱っており,一言で言えば画像工学の分野を研究していました。そのときは,中島先生もまだ若くて,若い先生のほうがこちらからも好きなことを言えると思い,入りました。そこで,今やっているような画像に関係する分野を始めるようになったというのがきっかけです。
 当時,中島研では,CTの画質向上や不完全入力データからの画像再構成等の研究をやっていました。そんなとき,先生が電磁気学の講義中に閃いたという,空中で導線を動かすだけで,目に見えない磁場の空間分布をCTアルゴリズムにより可視化するという研究テーマを与えられました。運がいいことに,そのテーマは始まったばかりのものでした。研究というのは,スタート直後が進歩の度合いが一番高いわけです。そのおかげで,卒論をすぐにIEEEの国際会議で発表できたりして,研究業績がどんどん上がっていきました。修士課程でも同じ研究を続け,就職も考えていましたが,勧められてそのまま博士課程に進みました。その後,教員として大学に残ることになり,中島先生からは学生のときのテーマではなく,自分で新しくテーマを作って分野を拓くようにと言われました。
 CTでは,センシングされた情報から2次元の画像を作っていきますが,そのときに画像のボケ補正や劣化を修正するアルゴリズムの研究を始めていましたので,ちょっと違った方向として,画像を3次元で出すという,今に続いているコンピュータビジョンの研究をやってみようと思ったのです。 <次ページへ続く>
斎藤 英雄

斎藤 英雄(さいとう・ひでお)

1992年 慶應義塾大学理工学部助手 1995年 同専任講師 を経て 2006年 慶應義塾大学理工学部教授(~現在) 1997~1999年 カーネギーメロン大学ロボット工学研究所の客員研究員兼務 2006~2011年 JST CREST研究代表者
●研究分野
コンピュータ・ビジョン,画像センシング・画像認識,仮想現実感・拡張現実感,人の挙動センシング・認識とその応用
●主な活動・受賞歴等
一般社団法人電子情報通信学会(IEICE)フェロー,日本バーチャルリアリティ学会フェロー,映像情報メディア学会会員,日本計測自動制御学会会員,日本情報処理学会シニアメンバー,IEEEシニアメンバー

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