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光が我らを導く果てまで ~光の導く交流が研究成果へつながる原動力に~横浜国立大学 理事(総務・研究担当)・副学長 國分 泰雄

EXAT研究会の発足を機にマルチコア光ファイバー研究が躍進

聞き手:2012年9月16~20日,オランダ・アムステルダムで開催の「欧州光通信国際会議(ECOC 2012)」では,空間多重/モード多重光通信用マルチコアファイバーに関して,12個のコアの光ファイバー1本で,52.4km先に1Pbit/sの超大容量データを伝送した研究成果が発表されています。

國分:光通信または光ファイバー分野の研究は今,マルチコアファイバーを中心に非常にホットでエキサイティングな状況にあります。私が最近集計してみた結果によると,国内学会および国際会議での空間多重/モード多重伝送に関する発表件数は2008年以降急増し,国内は電子情報通信学会の全国大会,海外では光通信関連の大規模な国際会議が開催される半年ごとに論文数は増加しています。今回52.4km先に1Pbit/sの超大容量データを伝送した光ファイバーは,円弧を描くように12個のコアを並べた構造になっています。これは,光ファイバーを曲げた時に中心と周辺との間のクロストークを回避するためであり,さらにトレンチを付けて電磁界の滲み出しを抑制して隣のコアとの間のクロストークを回避することが今の大きなトレンドです。
 こうした研究成果は,2008年に情報通信研究機構(NICT)主導で発足した,Extremely Advanced Optical Transmission Technologies(EXAT)研究会が中心となって研究・開発してきた結果です。EXAT研究会では,デンマーク工科大学の盛岡敏夫教授(元NTT先端技術総合研究所)と東北大学電気通信研究所所長の中沢正隆教授による伝送容量増加の将来予想に基づいて,Capacity crunchを回避するための将来技術として多値伝送,空間多重, モード多重を含めた3m Technologyとして研究を進めてきました。その第3回目の研究会で,私が異種コアの組み合わせによるマルチコアファイバー内のコア間結合の回避と高密度化法を提案し,また北海道大学大学院情報科学研究科長の小柴正則教授が具体的なコア間距離を数値解析して設計指針を示されたことで,その内容を連名で2008年のEXAT International Symposiumに発表しました。さらに,2009年にも連名でOptics Expressに2報の論文を発表しています。
 このような研究成果を上げてきた,EXAT研究会の功績は非常に大きいと思います。なぜなら,光ファイバーの研究はこれまで,光ファイバー通信の実用化前の1979年の国際会議で日本からケーブルの高密度化法としてマルチコアファイバーを提案し,断面がクローバー状の4コアの試作も提示しているものの,その後も1コアの時代が続き,数年に1度マルチコアファイバーに関する論文が発表される程度で,ほとんど進展は見られなかったからです。ましてや,当時はコア間結合によるクロストークは問題にされず,検討報告もない状況でした。
 今後のマルチコアファイバーの開発については,単に伝送路に多数のチャネルを詰め込むだけでなく,入出射端でのFan-in/Fan-outデバイス,WDMや波長選択切り替えスイッチ,経路切り替えスイッチなどの集積化が必要になるとみています。 <次ページへ続く>
國分 泰雄(こくぶん・やすお)

國分 泰雄(こくぶん・やすお)

1975年横浜国立大学工学部電気工学科(工学士)卒業。1977年東京工業大学理工学研究科電気工学科修士課程修了。1980年東京工業大学総合理工学研究科電子システム博士課程修了。同年東京工業大学精密工学研究所助手。1983年横浜国立大学工学部助教授。1984年米AT&Tベル研究所客員研究員(1985年10月まで)。1995年横浜国立大学工学部教授昇任。1996年(財)神奈川科学技術アカデミー「3次元マイクロフォトニクスプロジェクト」プロジェクトリーダー併任(1999年3月まで)。2001年横浜国立大学大学院工学研究院知的構造の創生部門教授。2006年横浜国立大学大学院工学研究院長(工学府長,工学部長兼務)(2009年3月まで)。2009年横浜国立大学理事(総務・研究担当)・副学長(現在に至る)。
●専門のご研究内容:マイクロリング共振器と呼ぶ半径5?20μm程度の微小デバイスを集積化し,大規模集積化可能な波長フィルター,波長選択スイッチや符号化回路などの光集積デバイスを実現。半導体量子井戸を用いた位相変調導波路による高速・低電圧波長ルーティング回路や,波長チャネルを用いる高速信号処理回路の研究を実施。光ファイバーの伝送容量を飛躍的に拡大する空間多重/モード多重伝送用として,マルチコアファイバーとモード合分波器の研究も実施。
●2004年第26回応用物理学会論文賞(解説論文賞)。2005年第3回国際コミュニケーション基金優秀研究賞。同年MOC Award。2008年第2回応用物理学会フェロー表彰「高屈折率差光導波路を用いた光集積デバイスの研究」。2010年IEEE FellowElevation,Citation:for contributions to integrated photonic devices他表彰・受賞。

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