【重要】技術情報誌『O plus E』休刊のお知らせ

自分1人で解決ができないならみんなを集めてみると解ける(株)ニコン 顧問 諏訪 恭一

つねにいい指導者を求めていく

聞き手:最後に光学分野の若手技術者や学生などに向けてメッセージをお願いします。

諏訪:そうですね,これは真面目な話ですが,光学というのは基本的に3次元構造物です。つまり単純に本を読んで経験を積み,数学を解いていれば理解が深まる分野とは違い,非常に複雑です。オプティクス分野で技術者が一人前になるまで非常に厳しく難しいと思っています。
 ですから,いい先生とかいい上司に,いいテーマをもらい,いい指導を受けないと伸びません。だから,光学を学んでいくのであれば,つねにいい指導者を求めていってほしいです。
 もし,いい指導者がいないと感じたらとか,視野を広げたいと考えるならば,たとえば学部から大学院は外に行くもいいですし,企業や研究所なら違う上司や 部門を探してほしい。別の上司を探してテーマをもらうとか,積極的に動いて欲しいです。 remark55_5  すでに日本の大学では,オプティクスそのものは教えていません。インダストリーになってしまって,大学における専門講座は今や僅かしか開講しておりません。そこに私は危機感を抱いて提案して,東大で寄付講座を開いたのです。繰り返しますがオプティクスを学ぶにはノウハウが必要ですが,そのためにはいい指導者に巡り合う必要があります。また,光学は精微な数学に体系付けられた分野です。私の反省から解析学,級数や複素関数など計算力を高めておくことが必要です。
 私は,北大と阪大で,大体オプティクスの一通りのことを学んでからニコンに入社したのはとてもよかったと思っています。その上でどうしてもこの分野やりたいなと思って1人で勉強していた理論と,レンズ制作の問題がピタッとマッチして,道が開けました。
 開発の管理職に送る言葉として会社で部下を持つようになったら,基本的に部下と競おうと思っては上手くいきません。上司は部下が出来ない事柄をやろうと思うべきです。下と競っていると,なかなか組織は上手に機能しません。管理職にしかできないことをやろうと思う気概が,仕事を成功し組織を大きくします。
 そしてもし経営を担う立場になるなら,相当な覚悟が必要です。光学専攻者から会社の経営陣になる方には,価格問題を真剣に考える必要があります。製造に於ける原価低減と販売に於けるマーケット戦略を含む価格戦略は経営の2大案件です。原価低減をどれだけ大人数で努力して成功しても,知恵と経験不足で価格を間違えると利益は一気に底になります。オーナー経営者で成功なさった方の大部分は価格戦略の達人と思います。価格は経営者が数字を背負い最後は自ら決める。という覚悟で臨まないと経営は失敗します。したがって40代以上は専門分野以外にも,予め原価や生産工程,営業や交渉など,会社に関する全般を見据えた経験と価格の勉強が本当に必須です。技術者と経営者では全く思考が違います。あたりまえですが,経営の部分で失敗したら会社を辞めなきゃいけない。準備と覚悟がないなら,技術屋から経営者になろうと思わないのがいいと思います。最後ですが,原価低減と価格決定に強力な意思を持つ次世代の光学分野出身リーダー層がどんどん輩出することを望みます。
諏訪恭一(すわ・きょういち)

諏訪恭一(すわ・きょういち)

1948年北海道生まれ 1971年北海道大学卒業 1973年大阪大学大学院修了 1973年株式会社ニコン入社 1977年精密機械事業(略)に異動 1991年アメリカニコン研究所創設 副社長 1996年第2光学設計部 GM 1999年精機カンパニー営業本部長補佐 2001年執行役員(半導体露光装置営業本部長)(2003年から2005年まで液晶露光事業部長) 2004年取締役兼執行役員 2005年専務取締役兼上席執行役員コアテクノロジーセンター長 兼ガラス事業管掌(2012年まで)2007年取締役兼専務執行役員 2012年顧問
●主な受賞歴等:1983年大河内記念技術賞受賞

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