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エンジニアリングとサイエンスのバランスを考える東芝リサーチ・コンサルティング(株) フェロー 波多腰 玄一

交差した干渉縞を観測

聞き手:本日はよろしくお願いいたします。最初に大学ご在学中の話からお聞きしたいと思います。ご専攻は何だったのでしょうか。

波多腰:学科は物理工学科でした。そこで卒業論文と修士論文,博士論文を書きました。卒業論文は「ごく薄い金属膜の電気的性質」というもので,指導教官は金原粲(きんばらあきら)先生でした。1990年ごろに応用物理学会の会長を務められた先生です。銀の薄膜の表面自己拡散モデルを実験的に検証するというテーマでした。この経験が現在担当している半導体レーザーやLED関係の研究で役立っています。誘電体多層膜フィルターやブラッグ反射鏡あるいは電極などに薄膜はたくさん使われていますので。
 そのあと,もうお亡くなりになっていますが,田中俊一先生の研究室でホログラフィーを学びました。ガボールによるホログラフィーの実験が始まったのがわたしが生まれたころですので,ホログラフィー研究の歴史は結構長いと思うのですが,実は大学に入るまで全然ホログラフィーのことを知りませんでした。ある時,新聞に非常にきれいなホログラムの干渉縞のカラー写真が出ていて,「波面を再生する」という話が載っていました。その時に「これはすごい」と思って興味を持ち,田中先生の研究室に入りました。
 修士論文のテーマは「ダブルパルスレーザーを用いたホログラムとホログラフィー干渉」だったのですが,使ったのはQスイッチのルビーレーザーでした。「ダブルパルス」と言っているのはQスイッチを2回かけるという意味です。物体に動きがあるとダブルパルスの間に移動するごくわずかの変位で干渉縞ができるという実験をやっていました。その時に興味深かったのは,変位によって得られた干渉縞で「交差した干渉縞」の写真が撮れたことです。エタロンで波長を選択していたのですが,実はエタロンの厚さで決まる波長間隔の多波長が出ているのです。多波長による等高線(干渉縞)と,たまたまそれに直交する干渉縞が変位によって現れたので,等高線の干渉縞と変位の干渉縞が直交したという結構珍しい写真が撮れました。それを解析して修士論文にまとめました。

聞き手:ホログラフィーのご研究も物理工学科,いや物理工学専攻でやられたのですか?

波多腰:そうです,物理工学専攻です。東京大学の本郷キャンパスですね。博士課程には田中先生の研究室でそのまま進みました。ホログラフィーに関連深い回折格子で,光導波路の回折格子をやらないかと言われて研究を始めました。当時はインテグレイテッドオプティクス(集積光学)や光ICという言葉が出てきたころだと思います。回折格子を光導波路のレンズに適用できないかということで始めました。
 おそらく,その研究を始めたころは,のちの博士論文のテーマにある光導波路における「ブラッグ型グレーティングレンズ」というものは世の中になかったと思います。少なくとも実証されていませんでした。原理的にはそれほど難しいものではないと思いますが,作るのには結構苦労しました。光導波路とともに導波路レンズとしての回折格子レンズを作らなければならないので,そういう意味で大変でした。ですから,実際にそれが出来上がって,光を入れて導波路上で絞ることができたのを見たときは感激しました。早速,それを論文にしてオプティクスレターに投稿しましたが,その時点で光導波路型のブラッグ回折型グレーティングレンズというのは,たぶん世界初だったと思います。
 わたしの論文が出た3カ月ぐらいあとに,アメリカのロックウェル・インターナショナル社から同様の技術に対して「われわれもちゃんと結果が出ている」という論文が出てきました。「われわれは独立に(インディペンデントリー)研究をしていた」という注釈をわざわざつけていましたので,論文発表ではこちらが少しは先に出せたということですね。実はロックウェルという会社は,MOCVDという有機金属気相成長法の研究開発ですごく有名な会社なのです。その後,世界中のMOCVD装置を使っている企業がロックウェルとの特許係争に巻き込まれることになるのですが,ドクター論文を研究している時はまったくそのようなことは知りませんでした。のちにMOCVD法を用いた半導体レーザーやLEDの開発に従事することになるので,今は少し因縁めいたものを感じています。
波多腰 玄一(はたこし・げんいち)

波多腰 玄一(はたこし・げんいち)

1974年,東京大学 工学部物理工学科卒業。1980年,同大学大学院 工学系研究科物理工学専門課程博士課程修了。同年,東京芝浦電気(株)入社,総合研究所電子部品研究所に配属。1989年,同社 総合研究所電子部品研究所化合物半導体材料担当 主任研究員。1996年,同社 研究開発センター材料・デバイス研究所研究第四担当 研究主幹。1997年,同社 研究開発センター個別半導体基盤技術ラボラトリー 研究主幹。2003年,東芝リサーチ・コンサルティング(株) フェロー。2006年,独立行政法人科学技術振興機構 研究開発戦略センター フェロー。2011年現在,(株)東芝 研究開発センター電子デバイスラボラトリー 参事(兼務),東芝リサーチ・コンサルティング(株) フェロー。独立行政法人日本学術振興会 光電相互変換第125委員会幹事,公益社団法人応用物理学会 日本光学会微小光学研究グループ運営副委員長,ISO/TC172/SC9国内対策委員会委員長。Laser Focus World Japan 社外編集顧問。

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