セミナーレポート

誰にでも分かる,サービス現場でのユーザー特性の画像センシング技術 ~ユーザーの体形,運動,行動センシング~産業技術総合研究所 持丸 正明

本記事は、画像センシング展2011にて開催された特別招待講演を記事化したものになります。

歩行は8個の主成分で表せる

 次に二つ目の「動き」の話に移りたいと思います。われわれが今,人間の動きの中でキーとしてとらえているのは「歩行」です。ターゲットの一つは健康,二つめは転倒となります。「健康のために一日10~走れ」と言われて走る人は少ないと思いますが,「歩け」と言われれば,「まあ,歩くぐらいなら」と言って実施する人は多いと思います。われわれが注目しているのは,歩数,つまり歩く“量”ではなくて,歩く“質”の部分です。歩き方を変えることによって,同じ歩数でもっと効果的に運動ができるのではないかという考え方です。
 皆さんの体形に個人差があるように,皆さんの歩き方にも個人差があります。その個人差をしっかり知って,それをうまくコントロールしてやれば,歩き方を「質的に」変えることができるのではないかと考えています。まずは,研究室の中でデータベースを作ります。モーションキャプチャーと床反力計という装置を組み合わせて,歩行を測定します。これらのデータから,関節角度と体にかかる負荷になる関節モーメントを計算します。今回お見せするのは2次元のシンプルな下肢だけのモデルですが,実際の研究室では3次元の全身モデルが動いています。
図9 歩行データベースの構築

図9 歩行データベースの構築

 図9が一人の計測データから得られた波形です。左側が関節角度の経時変化で,右側が関節モーメントの経時変化です。これが1秒ぐらいの周期で繰り返されます。このデータを正規化して1人当たり100個ぐらいの点の集合にすると,膝や股関節,足関節の動きと,それぞれの力(モーメント)がありますから,全部で6個,合わせて600ぐらいのベクトルになります。1人の歩き方は,600ぐらいのベクトルで表せるということです。こうしたデータを,個人差と個人内差を含めて大量に取得して,それを主成分圧縮します。そうすると,人の歩き方は,体形に比べてずっと少ない8個ぐらいの成分で86%程度の個人差を表すことができるようになります。
図10 歩行の個人差

図10 歩行の個人差

 図10の横軸と縦軸が歩き方を評価する第1軸と第2軸になります。第1軸では,左側を「ガシガシ歩き」,右側を「スタスタ歩き」とわれわれは呼んでいます。皆さんが歩く時には,まず踵が地面に着きますね。その後,踵が着いた足の膝が1回ちょっと軽く曲がります。そしてまた伸びて,つま先でけり出した後にもう1回膝が大きく曲がって足を前に繰り出します。これを「ダブルニーアクション」といいます。つまり,1歩行周期の間に皆さんの膝は2回曲がっているのです。
 最初に膝が曲がる時には,太ももの前の方の筋肉,いわゆる大腿四頭筋が働いています。この筋肉は,サッカーでボールをキックする時,つまり下肢を前に蹴り出す時に働く伸展筋という筋肉です。しかし,足は屈曲したままです。伸展筋を使いながら膝が屈曲するのを,われわれの世界では「イーセントリックな収縮」といって,この動きはエネルギーを吸収する働きをしています。皆さんは普段まったく意識せずに歩いていますが,踵が着いた瞬間に大腿の力を使いながら踵にかかった衝撃を吸収するという動作をしているのです。
 その吸収の度合いがすごく大きい人と,ほとんど吸収せずに人形が歩くように歩いている人がいます。後者はたぶん,膝に少し衝撃がかかりますが,逆にエネルギー効率が良いということになります。人間の体というのは,現代の自動車のようにブレーキをかけた時に回生エネルギーとしてためる機能がないので,こうした運動はすべて熱となって逃げてしまいます。ということは裏を返すと,ダイエットには向いているということになりますね。
 縦軸となる第2軸の上の方は,足を少し大股に開いて蹴り出すタイプです。下は,小股に開いてトコトコと歩くタイプです。そう言われても,皆さんはご自身がどちら側か,たぶん見当が付きませんね。それで,これを簡易的に測って見当が付けられるシステムを開発しています。研究室の中でしっかりした歩行のデータベースが作れれば,部分的なデータを現場で取るだけで,残りの部分を復元することができます。しっかりした体形のデータベースが相同モデルとしてできれば,いくつかの寸法を採寸するだけで3次元の体形を復元できることとまったく同じ原理です。

<次ページへ続く>

産業技術総合研究所 持丸 正明

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