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研究室探訪vol.27 [東京大学 生産技術研究所 志村研究室]志村 努 教授

あの研究室はどんな研究をしているのだろう? そんな疑問に答える“研究室探訪”。
今回は,東京大学 生産技術研究所 志村研究室にお伺いしました。

物質と光の相互作用で光を操る,物質を操る

 志村研究室では,「物質と光の相互作用で光を操る,物質を操る」をコンセプトに研究を行っている。誘電体,半導体,磁性体,金属などの様々な物質と,時空間制御された光との相互作用による新奇物理現象を解明し,さらに,それらを究極的に制御することによって新世代の光科学・光技術の開拓を行っている。
志村 努 教授
1982年 東京大学工学部物理工学科卒業 1987年 同大学院工学系研究科物理工学専攻修了 工学博士 1987~94年 同生産技術研究所助手 1991~92年 カナダNRCポスドク 1994年 東京大学生産技術研究所講師 1995年 同助教授 2004年 同教授 2018年 同研究所光物質ナノ科学研究センター長
田中 嘉人 助教
2008年 大阪大学工学研究科応用物理学コース 博士後期課程修了 2008年 北海道大学博士研究員 2014年 関西学院大学特任助教 2015年 科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業「さきがけ」研究員 2015年 東京大学生産技術研究所 助教

[研究テーマ1]ホログラフィック光メモリー

 ホログラフィックメモリーはホログラフィーを用いて2次元デジタルデータを記録再生するデジタル光メモリーである。巨大版QRコード(2次元バーコード)のような2次元デジタルデータを記録再生すると,ホログラフィーで記録できるのは3次元画像なので,1次元分余ることになり,同じ体積に複数の2次元データが重ね書きできることになる。重ね書き可能な枚数は,記録媒体の厚さに比例する。一般に,光メモリーでは1ビット記録するのに,ざっくり言って,平面記録ならλ2の面積が(λは光の波長),体積記録ならλ3の体積が必要であるから,3次元の記録材料を使用するホログラフィックメモリーでは,記録容量を飛躍的に大きくすることができる。また,ホログラフィックメモリーでは,1,000×1,000画素程度のデジタルデータを1クロックで一気に読み書きできるので,1クロックで1ビットしか読み書きできない通常の光ディスクやハードディスクに比べて,大幅な高速化が可能になる可能性を持っている。
 われわれは,これまでにコリニアホログラフィックメモリーシステムを中心に,情報の記録再生過程の理論的解明と,これに基づくノイズ特性と記録密度限界の見積もり,記録材料としてのフォトポリマーの反応解析と記録特性の解明を行っている。コリニアホログラフィックメモリーは単一の空間光変調器(SLM:Spatial Light Modulator)から参照光と物体光の両方が発せられ,1つのレンズでこれらが集光されてホログラフィーが記録されるシステムで,外乱に強く,また従来の光ディスクと基本的に同一なコンパクトな光学系である,という利点を持っている。

図1 コリニアホログラフィックメモリーの基本構成

[研究テーマ2]金属ナノ構造と光の相互作用による力の発生

 金属ナノ構造中自由電子の集団振動(表面プラズモン)と光を結合し,自然界にない光学特性をもつ物質を人工的に作り出す研究が近年注目されている。研究室では,ナノ構造体のサイズや形状,照射光の偏光や空間位相分布を工夫することにより,表面プラズモンのふるまいを時間的・空間的に制御する研究を行っている。また,精密にデザインされた表面プラズモンを活用し,光を自在制御する極微小光学デバイスを開発している。
 金属ナノ構造の形状やサイズを設計することにより,散乱光の空間分布を制御すると,光子の運動量変化により力を発生し,さらにはその方向や大きさを制御することができる。その際,金属ナノ構造に誘起される電気・磁気多重極子を解析し,制御することにより,より多彩な散乱光制御が可能となる。このような研究を元に,応用デバイスとして,照射する光の空間分布を固定した状態で,波長,偏光を変えることにより,進行方向や回転方向の変わる光駆動ナノモーターが実現できることを実験的に示した。
 また,ナノ構造と光の間の角運動量のやり取りにも着目し,ねじれの位置にある2本の金属棒など,キラルな3次元金属ナノ構造と光の相互作用についても研究している。この研究の過程で,光の軌道角運動量とスピン角運動量を分離して計測する方法を,理論から構築した。

図2 ナノロッドペアの配列により光圧の配列をデザインした光駆動ナノモーター
図2 ナノロッドペアの配列により光圧の配列をデザインした光駆動ナノモーター

[研究テーマ3]メタ表面による光波制御

 近年,金属や誘電体のナノ構造を2次元に配列した,メタ表面が注目を集めている。光によってナノ構造に電気あるいは磁気双極子が誘起され,これによる双極子輻射が入射光と重ね合わされて出射光となるため,ナノ構造は人工的な原子(メタ原子)とみなすことができ,このメタ原子の共鳴周波数の制御,双極子の振動方向の制御などにより,透過光の位相,偏光,強度の制御が可能となる。現状メタ表面の設計は,数値シミュレーションに多くを依存しているが,研究室では適切なモデルを立てることにより,数値シミュレーションへの依存度を下げた,より直感的なメタ表面の機能の理解を目指している。また,実際に作製したメタ表面からの出力光の位相,偏光をより精密に計測するシステムの実現も目指している。
 応用システムとして,メタ表面を用いた光メモリーの検討も行っている。従来の光メモリーは表面の凹凸形状あるいは反射率分布により強度を変調していたのに対し,メタ表面を用いると,強度,位相,偏光の同時制御が可能となり情報量の増大が期待される。また表面型構造であるために,ナノインプリント等による一括製作の可能性もあり,将来の展開が期待される。

図3 メタ表面を構成するメタ原子の例

志村研究室より

 光が金属ナノ構造中自由電子の集団振動(表面プラズモン)と結合すると,回折限界以下のナノ空間に光を閉じ込めたり,新奇な光伝搬特性を示したりするなど,光学的に興味深い様々な現象が現れる。研究室では,ナノ構造体のサイズや形状,照射光の偏光や空間位相分布などを工夫することにより表面プラズモンモードを制御し,ナノ構造体の光散乱特性を自由自在に制御する研究に取り組んでいる。また,このようなプラズモンによる光波制御によってナノ構造体に働く放射圧にも着目し,ナノ構造体の配列を使って様々な運動を駆動・制御する新奇な技術の創出を目指している。

志村 努 教授

東京大学 生産技術研究所 志村研究室

住所:〒153-8505 東京都目黒区駒場4-6-1
   東京大学 生産技術研究所 C棟3階Ce305号室
   TEL: 03-5452-6137 FAX: 03-5452-6140
E-mail:shimura@iis.u-tokyo.ac.jp
URL:http://qopt.iis.u-tokyo.ac.jp/pub/

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