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研究室探訪vol.26 [慶應義塾大学 神成淳司研究室]神成 淳司 教授

あの研究室はどんな研究をしているのだろう? そんな疑問に答える“研究室探訪”。
今回は,慶應義塾大学 神成淳司研究室にお伺いしました。

ICTによる先端農業を目指して

 神成研究室では,農業・ビジネスホテル・小売り等のテーマをメインに,実践に基づいた研究を行っている。不安定な収入や高年齢化といった厳しい状況にさらされている現場を改善するために,ITを活用した新たな取り組みを進めている。
神成 淳司 教授
1996年 慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了 2004年 岐阜大学大学院 工学研究科 博士後期課程修了 博士(工学) 1996年 IAMAS(岐阜県立国際情報科学芸術アカデミー)助手 2000年 岐阜県情報技術顧問(併任) 2001年 IAMAS講師 2007年 慶應義塾大学環境情報学部 専任講師 2011年 同大学 環境情報学部 准教授 2012年 同大学医学部 准教授(兼担) 2017年 SFC研究所AOI・ラボ代表 2019年 同大学 環境情報学部 教授 現在,一般財団法人 アグリオープンイノベーション機構 統括ディレクター(2017年~),国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構) 農業情報連携統括監(2019年~), 内閣官房 イノベーション戦略調整官(2021年~)にも従事

[研究テーマ1]スマートフードチェーンプラットフォームの構築

 スマートフードチェーンプラットフォーム(SFP)は,研究開発・生産から流通,加工,小売り,そして消費までのフードチェーンが取り扱う農産物などに関するデータを連携させるためのデータプラットフォームである。この取り組みは,内閣府戦略的イノベーション創造プログラム(SIP:Cross-ministerial Strategic Innovation Promotion Program)第2期「スマートバイオ産業・農業基盤技術」のプロジェクトの一環として2018年末より開始されたもので,2023年春の社会実装を目指して研究開発が進められている。生産,物流,販売をつなぐサプライチェーンをスマート化して,その上流に開発と,下流に資源循環をつないだ循環型市場によりスマートフードシステムは実現する。WAGRI(農業データ連携基盤)は,そのための重要な軸だと考えられる。これまでは生産者,卸売市場など,小売店などで連携されていなかった伝票などを一元化して管理する情報連携の効果的な組み合わせにより,新たな価値を生み出す可能性も生まれてきている。自然の影響により特定地域に需要が偏ったり,余ったりする,こうしたフードロスにつながる状況を防ぐため,産地と市場をつなぐ情報連携の必要性につながってきている。

図1 スマートフードチェーンプラットフォームの効果
図1 スマートフードチェーンプラットフォームの効果

[研究テーマ2]食品ロス削減とQoL向上を同時に実現する革新的な食ソリューションの開発

 食べ物の「おいしさ」は五感(視覚,聴覚,触覚,味覚,嗅覚)が複雑に絡み合った感覚である。味とにおいといった化学的要素としてのフレーバーと,食感といった物理的要素となるテクスチャーとで「おいしさ」は構成されている。さまざまな言葉を使って,おいしさは表現されるが,個人の好みや年齢,健康状態など,全体的に「おいしさ」をとらえることは困難である。しかし,例えば,食感(テクスチャー)に着目し,代替食材で好みの味を再現できるようにすれば,特定の食材の消費を抑えて食品ロスも削減できる。そもそも,江戸時代では手に入らない食品を食べるのに代替食材を用いるなどしており,精進料理として現在に伝わるものも多く,それがもどき料理へと展開されている。同一食材が多用途に活用される(レシピの幅が広がる)ことで,発展途上国の食糧問題を含めたフードロス抑制への貢献が期待される。もどき料理は,単に動物性由来食材を差し替えるだけはなく,あわせる食材・調味料・調理法の工夫により,食感(テクスチャー)・味覚・嗅覚・視覚を再構築して新たな「おいしさ」を創造している。
 研究室では,例えば,異なる食感をもつ米を食材に合わせてブレンドし,実際に,阪急百貨店の関連施設でブレンド米を販売して消費者の反応を探り,新たな食のスタイルを提案を考えたりしている。また,アスリート向けの料理をよりバラエティ豊かな食体験ができるように両立を考えたり,おいしいと言ってもらえる介護食のために,化学物質を使わない方向性で,ダイズミート等を使用した事例を調査しながら検討したりもしている。

図2 コメを原材料とする加工品とそのテクスチャー
図2 コメを原材料とする加工品とそのテクスチャー

[研究テーマ3]静岡県AOI-PARCを拠点にした次世代栽培システムに向けた取り組み

 研究室では,静岡県AOI-PARC(アオイパーク)を拠点に,ICTや先端技術などを活用した農業関連分野の研究開発を進め,次世代栽培システムなどを活用した,安心安全,低コストおよび高機能の農産物の育種や効率的な生産手法の検討を進めるとともに,健康・長寿を目指した高機能型食品等開発に向け,農産物由来成分の機能性に関するエビデンス確立のための科学的実証などを推進する事業を進める取り組みをしている。
 農作物の栽培方法の高度化,AI農業の導入,生産・食・健康情報の連携基盤の開発のほか,産官学連携に向けて研究開発を目指す。

図3 温湿度や光,CO2の制御が可能な次世代栽培実験装置
図3 温湿度や光,CO2の制御が可能な次世代栽培実験装置

神成研究室より

私たちは「最先端の科学技術を現在の社会システムの様相に的確に適用させる仕組みづくり」が最も重要だと考えています。研究室では,基礎的なサイエンスの分野から,それを社会に適用し,社会システムとしての産業化までの一連の流れを確実にとらえる,具体的な取り組みを実践しています。

神成 淳司 教授

慶應義塾大学 神成淳司研究室

住所:〒252-0882 神奈川県藤沢市遠藤5322
   慶應義塾大学 湘南藤沢キャンパス イプシロン館 206号室
   TEL: 0466-49-3521
E-mail:info@kaminari-lab.net
URL:http://kaminari-lab.com/

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