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研究室探訪vol.25 [東京大学 竹内 渉研究室]竹内 渉 教授

あの研究室はどんな研究をしているのだろう? そんな疑問に答える“研究室探訪”。
今回は,東京大学 竹内 渉研究室にお伺いしました。

衛星画像処理などの空間情報技術を中心とした環境変動の計測技術の開発

 リモートセンシングの社会実装を見据えた応用リモートセンシングを研究対象としている。本研究室では,人間活動によって都市,農地,森林で起こっている環境変動を,空間情報技術を中心に計測・評価する方法論について研究するとともに,システムの開発と社会実装を通じて問題解決に向けた国際的技術協力を実施している。
竹内 渉 教授
2004年 東京大学大学院 工学系研究科 社会基盤工学専攻 博士課程修了 博士(工学) 2004年 東京大学生産技術研究所 科学技術振興特任研究員 2005年 東京大学生産技術研究所 特任助手 2007年 客員講師,アジア工科大学院(タイ王国) 2007年 東京大学生産技術研究所 人間・社会系部門 専任講師 2010年 日本学術振興会(JSPS)バンコク研究連絡センター長(兼務) 2010年 東京大学生産技術研究所 人間・社会系部門 准教授 2017年 内閣府 政策統括官(科学技術・イノベーション担当)付(総合科学技術会議・イノベーション会議事務局 エネルギー・環境担当)上席政策調査員(非常勤) 2018年 東京大学生産技術研究所 人間・社会系部門 教授

[研究テーマ1]熱帯泥炭地のCO2放出に人間活動が及ぼす影響

 泥炭地とは長い時間をかけて枯れた植物があまり分解されず溜まってできる土地のことで,有機物を多く含む。泥炭地が形成されやすい地域は水分が多く,湿度も分解しにくい条件の場所であり,例えば北欧やロシアなどの高緯度地域にその9割が分布し,熱帯の東南アジア地域にも大規模の泥炭地が分布している。特に泥炭地は炭素を多く貯蔵しているため,地球温暖化を軽減する可能性をもつ生態系システムとして注目されている。しかし,最近は耕地化などの人間活動による土地開発で泥炭地の地下水位が下がり,泥炭に含まれていた炭素が酸化し,CO2を多く放出していると指摘されている。
 特に人為的開発が行われたインドネシアにおいて地下水位が低下しているため,研究室では,インドネシアの泥炭地におけるCO2の放出量を人工衛星観測値と現地観測により得られたCO2放出モデルを用いて計算する。モデルには地下水位と土壌および生態系の呼吸量,植物の光合成量,また火災によるCO2の放出量が含まれており,特に泥炭地の排水路の抽出とそれに伴う地下水位の低下を考慮してCO2放出量の増加を推定した。それにより,熱帯泥炭地において地下水位の低下は泥炭の分解を促進しCO2放出量を増加させることが明らかになった。今後,さらに人間活動が原因とされるCO2放出源の分析を行う予定である。

図1 2013年10月,インドネシア・カリマンタン島パランカラヤで行われた現地調査での泥炭火災の様子
図1 2013年10月,インドネシア・カリマンタン島
パランカラヤで行われた現地調査での泥炭火災の様子

[研究テーマ2]全球の水田農事暦地図の作成および時空間的な水田からのメタンガスの発生量推定

 米が栽培される水田は,食料源としてだけでなく,近年問題となっている地球温暖化の原因となるメタンガスの発生源としてもその重要性が増してきている。そこで研究室では衛星観測を用いて全球の水田の農事歴地図(いつ,どこで稲が栽培されているか)を作成し,それをもとに水田から発生するメタンガスの発生量を全球規模で推定した。水田の抽出に必要不可欠な作付時期の冠水状態の観測は,これまでは雲の影響により難しいとされていた。本研究では,被雲下でも観測が可能な高性能マイクロ波放射計AMSR-Eと可視光域センサーMODISを組み合わせて,新たな冠水指標を作成した。そして,NDVIの時系列データにフーリエ解析を用いて低周波数成分のみを抜き出し,そのピーク日を稲の出穂期と過程する。仮定された出穂期の60日前に作成した冠水指標が上昇している,かつ,LST(Land Surface Temparature)が稲の温度生育条件を満たしていることを確認し,その地点を水田と判定した。その結果,水田から発生するメタンガスの全球での空間分布および時間分布が明らかになり,地域ごとの水田からのメタンガス発生の特性が明らかになった。今後,ほかのメタンガスインベントリと本研究との比較やポイントベースの計測との比較を課題としている。

図2 アジアの水田の農事暦地図から作成されたメタンガス発生量の推定結果
図2 アジアの水田の農事暦地図から作成されたメタンガス発生量の推定結果

[研究テーマ3]アジア太平洋地域の熱中症危険度の分析と評価

 気象変動やヒートアイランド現象による熱中症患者数の急増が報告されており,健康被害の危険性を把握するための暑熱環境観測が重要性を増していると言える。この傾向は日本にとどまらず,広げてアジア太平洋地域においても問題とされるところである。研究室では時空間的に均質な測定を行うことができる衛星リモートセンシングを用いた体感気候に即した暑熱環境観測方法の構築をするとともに,暑熱環境やその他社会経済的要因が熱中症発生率に及ぼす影響について分析し,アジア太平洋地域における暑さ指数WBGT(Wet Bulb Globe Temperature)の分布を空間分解能4 kmで可視化した。また,社会経済的要因としてエアコン普及率,屋外作業者の割合,年齢別人口構成を考慮した熱中症リスクを考案し,アジア太平洋地域各国において算出し,熱中症危険とマップを作成した。今後,各地域における実際の熱中症患者数のデータを取得し,検証を行う必要がある。

図3 社会経済的要因を考慮したアジア太平洋y地域の熱中症危険度の推定結果
図3 社会経済的要因を考慮したアジア太平洋y地域の熱中症危険度の推定結果

竹内研究室より

 研究室では,五感を通して取得した情報を大切にし,知性と心の機微を捉えることができる人材を育成し,中長期的な展望・俯瞰的視野をもった,国際的活動・社会貢献ができるようになってほしいと考えている。

竹内 渉 教授

東京大学 竹内 渉研究室

住所:〒153-8505 東京都目黒区駒場4-6-1
   東京大学生産技術研究所 B棟6階 Bw-602
   TEL: 03-5452-6409, 03-5452-6411
   FAX: 03-5452-6410
E-mail:wataru@iis.u-tokyo.ac.jp
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