【重要】技術情報誌『O plus E』休刊のお知らせ

研究室探訪vol. 11[大阪府立大学 光電波システム研究グループ]久保田 寛和 准教授,三好 悠司 准教授,大橋 正治 名誉教授/客員教授

あの研究室はどんな研究をしているのだろう? そんな疑問に答える“研究室探訪”。
今回は,大阪府立大学 光電波システム研究グループにお伺いしました。

伝送媒体と伝送技術両面から革新的通信技術を目指す

 次世代移動通信,インターネットを利用したサービスの普及に伴い,爆発的に増加する情報量を伝送・処理できる通信システムが重要となってきた。そのためには,伝送媒体と伝送技術を両輪として,超大容量伝送の革新的光通信技術の発展が必要である。光電波システム研究グループでは,このような時代の要請に応えるために,空間多重用光ファイバー設計,測定法,光ファイバーセンサーなどの伝送媒体技術およびナイキストOTDM伝送,高速信号の発生・検出,波形整形などの光伝送技術の研究を行っている。
久保田 寛和 准教授
1984年大阪大学理学部物理学科卒。1986年大阪大学理学研究科物理学専攻博士前期課程修了。同年NTT入社,茨城電気通信研究所勤務。1998年博士(工学)。光ソリトン等光ファイバー中の非線形光パルスの伝搬,フォトニック結晶ファイバー,モード多重通信等の研究に従事。2013年大阪府立大学大学院工学研究科准教授。電子情報通信学会シニア会員,米国光学会シニア会員,電気学会,米国電気電子学会,英国電気学会各会員。
三好 悠司 准教授
2008年大阪大学大学院工学研究科電気電子情報工学専攻博士後期課程修了。博士(工学)。日本学術振興会特別研究員を経て,2010年大阪府立大学大学院工学研究科助教。2018年より大阪府立大学大学院工学研究科准教授。光相関検波や非線形光学効果を用いた光サンプリング,フィルタリング等の光信号処理に関する研究に従事。電子情報通信学会,米国電気電子学会各会員。
大橋 正治 名誉教授/客員教授
1977年名古屋工業大学電気工学科卒。1979年東北大学大学院電気および通信工学専攻博士前期修了。1979年日本電信電話公社(現NTT)茨城電気通信研究所入社。1987年工学博士。光ファイバーの設計・伝送特性・測定法の研究,光ファイバーの低損失化技術の研究,光センサーの研究に従事。1997~2008年ITU-TSG15のラポータ。2002年大阪府立大学大学院工学研究科教授。2019年同大名誉教授/客員教授。

[研究テーマ1]革新的光ファイバーの設計・伝送特性・測定技術の研究

 SMFの伝送容量限界を打破するために,SDMシステムで用いるMCFおよびFMFの革新的光ファイバーの研究を行っている。これらの光ファイバーの設計では,伝送特性の把握および測定技術は極めて重要である。MCFおよびFMFの構造パラメーターを,OTDRを用いて簡単に測定する手法,干渉法による分散特性の評価法を提案した。図1に2コア2モードMCFの各コアのLP01とLP11モード間の群遅延差を同時に測定するための測定系を示す。MCFの2つのコアに光を入射させ,両コアのLP01とLP11モード間で生じた干渉波形を図2に示す。干渉波形をフーリエ変換し,各コアで生じた干渉のフーリエスペクト成分を抽出し,逆変換することで各コアの干渉波形を復元して求めた群遅延差を図3に示す。本テーマは,更なる大容量伝送用SDMファイバーの国際標準規格作成のために規定すべきファイバーパラメーター,その規格値および試験法について検討し,国際標準化へ貢献することを目標としている。


[研究テーマ2]光信号処理を用いた高速光信号発生・検出技術の研究

 光通信で利用されるディジタル信号処理技術は複雑な信号処理が可能な一方,電子回路の応答速度の限界や計算量増大にともなう消費電力の増加が課題となっている。この課題を解決するために,高速な電子回路や計算が不要な光相関受信器を用いた信号検出方法を考案した。さらに,これを利用したナイキスト光時分割多重(N-OTDM)システムによる大容量伝送を研究している。図4に光相関受信器の外観を示し,図5にN-OTDM信号の検出に用いる光相関受信器の構成と処理系を示す。光相関受信器はフォトレシーバーのインパルス応答を積分回路として用い参照光と信号光の相関演算を行い,N-OTDM信号の多重分離と帯域外雑音を除去する整合フィルターの役割を果たす。また,光相関受信器は,参照光形状を変化させるとフィルター特性を変化させることができ,波長分散補償への応用も可能となる。さらに,非線形光学効果を利用した波形整形や高速信号生成技術の研究も進めている。本テーマは,このような光信号処理を用いた高速光信号の発生・検出技術や高速大容量かつ省電力な通信技術の実現を目指している。


[研究テーマ3]空間モードを活用した通信と計測技術の研究

 光通信システムの大容量化は,時分割多重, 波長分割多重の多重化により進展し,さらに,信号光の位相と振幅の利用した多値変調も実用化され,残された多重化軸は空間方向の自由度(空間モード)である。モード多重通信(MDM)では,モードの分離はディジタル信号処理(DSP)が主流であるが,DSPを用いないで空間モードを自由に操る技術,ピュアな高次モードの生成技術等も必要となる。そのために,モード変換器,モードフィルター,光導波路を使ったモード合分波器などを研究している。図6は2モードファイバーを用いた長周期ファイバーグレーティング(LPFG)による基本モードフィルターの特性を示す。高次モードのパワー比率を向上できた。一方,空間モードの計測技術としては、モード励振比およびモード結合係数の測定法などを提案した。 図7は曲げ損失のモード依存性を利用したインライン型の励振比評価法で測定した励振比設定値(横軸)と励振比測定値(縦軸)の関係を示す。また,モード変換技術とFMFを利用したファイバー干渉計による歪みセンサーなど,FMFをセンサーに応用する研究に着手している。


光電波システム研究グループより

 光ファイバー通信システムのさらなる大容量化ためのキーワード「3M技術」のもと,コア数およびモード数の増加を目指した新しい光ファイバーケーブル技術に関するテーマを研究している。また,新しい信号処理技術を用いたナイキストOTDMにより大容量伝送技術の研究と信号処理技術の新しい応用分野を目指したテーマを研究している。さらに,第5世代移動通信を支える光ファイバー通信技術および光ファイバーセンサー技術の新しいテーマについても取り組んでいる。
*3M技術:マルチコアファイバー,マルチモード制御技術,マルチレベル変調技術

久保田 寛和 准教授

大阪府立大学 大学院工学研究科
電気情報システム工学分野
光電波システム研究グループ
住所:〒599-8531 大阪府堺市中区学園町1-1
TEL: 072-254-9493(直通)
FAX: 072-254-9907(学科事務室内)
E-mail:kubota@eis.osakafu-u.ac.jp
URL:http://www2.eis.osakafu-u.ac.jp/~uopmu/

本誌掲載号バックナンバー

OplusE 2019年9・10月号(第469号)

特 集
ペタビット級光伝送を支える光デバイス技術
販売価格
1,500円(税別)
定期購読
8,500円(1年間・税別・送料込)
いますぐ購入

研究室探訪 新着もっと見る

本誌にて好評連載中

私の発言もっと見る

一枚の写真もっと見る