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研究室探訪vol. 8 [慶應義塾大学 理工学部 神成研究室]神成 文彦 教授

あの研究室はどんな研究をしているのだろう? そんな疑問に答える“研究室探訪”。
今回は,慶應義塾大学 理工学部 神成研究室にお伺いしました。

超高速フェムト秒パルスレーザーを利用した,制御された光子と物質の相互作用

 レーザーは,誕生してすでに60年近く経過している。時間,波長,パワーに加えてコヒーレンスの極限的な領域を除いては,ほぼ大学で新しいレーザー装置自体を研究する時代は終わりつつある。これからは,量子力学を最も美しく実現できるレーザーの本質的な能力をいかに使いこなすかを考え,その原理を実験室における学問だけに留めずに,今まで以上に難しい物理原理であってもユーザーにとってはスイッチ1つで操作できるハードとソフトの協調を実現させるのがレーザーエンジニアのあるべき姿である。我々の研究室は,そのためのひとつの手段として光のコヒーレンス(位相相関特性)を計算機で制御することに着目し,特に超高速フェムト秒パルスレーザーの時間域,空間域のコヒーレンスを自由に操って,制御された光子と物質の相互作用の構築を目指して研究を進めている。
神成 文彦 教授
1985年慶應義塾大学大学院 工学研究科 電気工学専攻 博士課程修了( 工学博士) 1984年Rutherford Appleton研究所研究員。1986年 Spectra Technology社上級研究員。1988年 慶應義塾大学理工学部助手。2000年より現職の慶應義塾大学理工学部教授。レーザー学会副会長。応用物理学会理事。著書は、「量子工学( 培風館)」「レーザー応用光学( 共立出版)」「分光測定のためのレーザー入門(講談社サイティフィック)」等。応用光学・量子光工学等に従事。

[研究テーマ1] フェムト秒プラズモンの計測制御による時空間ナノフォトニクスの開拓

 本来,回折限界以下の空間分解能を有さない光による,物質とのナノメーター領域の制御された相互作用を実現できるのが,励起光と金属ナノ構造の自由電子の集団的応答とが結合したプラズモン場である。金属ナノ構造の反電界形成が構造に依存することから,材料および構造によってプラズモン共鳴波長が存在し,ナノ空間に局在した強い電場を発生できる。こういったプラズモン共鳴は,金ナノ構造を用いたプラズモン増強ラマン分光などのセンシングや,局在的な生体組織の加熱などの応用に期待が持たれている。 本研究室では,すでにフェムト秒レーザーを用いた近接場走査型顕微鏡と相互相関周波数干渉計測によって超高速プラズモン場の複素パルス波形を計測し,応答関数を求める手法を確立した。そして,波形整形器を用いてフェムト秒レーザーパルスを整形し,特定のナノ構造のプラズモン波形を整形できることを実証した。これにより,プラズモン場による選択的2光子励起,コヒーレント反ストークスラマン散乱(CARS),等の非線形過程も制御できる。また,光相変化材料を基板に用いると,相変化によって応答関数が大きくシフトすることを実測し,プラズモンスイッチ光回路への展開が期待できる。 また,応答関数に基づいたプラズモン制御の原理は,局在プラズモン場に限定されず,金属-誘電体-金属からなるプラズモン導波路における,導波性プラズモン波(表面プラズモンポラリトン:SPP)の伝播特性を制御できることも実証した。プラズモンのナノ集光を用いたグラフェンナノ細線の形成などへ展開している。


図1 超高速プラズモンナノ集光を用いたCARSイメージング計測


[研究テーマ2] 線形周波数チャープパルスを用いた全光学式シングルショット超高速連写イメージング法(SF-STAMP)の開発と応用

 従来のCCDやCMOSなどの電気的なイメージセンサーを用いた高速度カメラを使用することで撮影が可能な時間域は最短でナノ秒(10−9 s)領域である。ナノ秒以下の高速現象の撮影には,超短光パルスレーザーを用いたポンプ・プローブ法による時間分解計測が広く利用されているが繰り返し計測が必要であるため再現性に乏しい現象を撮影することはできない。したがって,衝撃波,プラズマ物理,光化学などにおける超高速現象の解明のために,サブピコ秒領域の高速連続撮影技術の向上が求められている。


図2 周波数チャープパルスを用いた世界最高速コマ撮り撮影装置(SF-STAMP)


[研究テーマ3] 波長分割多重プログラマブル大規模量子シミュレーター

 多数の原子から成る大きな分子の分子内電荷移動および振動準位間光遷移確率(Frank-Condon Factor)を数値計算によって予測することは,人工光合成技術や新薬創生などへの応用をめざした量子化学の重要な課題の1つである。しかし,これらのプロセスは非常に複雑な量子干渉効果を伴うため,古典計算機で容易にシミュレーションを行うことができない。本研究では,超短レーザーパルス光の広大な周波数リソースを用い,周波数モード間の量子操作を大規模かつプログラマブルに実現することで,振電準位間光遷移確率を効率的に計算できる量子シミュレーターの実験的実証をめざしている。


図3 波長多重スクイーズドパルスと量子ゲートパルスを用いた量子シミュレーター光学系


神成研究室より

 現在は,コア技術としての計算機制御フェムト秒パルスレーザーを軸にし,半導体,分子反応,DNAタンパクといった対象の超高速物理を計測し,さらに制御する実験を展開している。さらに,超高速ナノフォトニクス,バイオイメージング,量子光学,光導波路加工などに幅広く応用している。我々の研究室の計算機制御フェムト秒レーザー波形整形技術の様々な応用展開力は世界一の性能を誇る。常に斬新なアイデアを産み出し,実験からそれを実証し,パラダイムシフトを起こせるような新しい光の応用に狙いを定めて研究している。学生は,国際会議で研究成果を発表し,有名な研究者と意見交換し,さらに競い合う面白さに魅了されている。

神成 文彦 教授

慶應義塾大学理工学部 電子工学科 神成研究室
住所:〒223-8522 横浜市港北区日吉3-14-1
TEL:045-566-1535(居室直通) FAX:045-566-1535
URL:http://www.kami.elec.keio.ac.jp

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