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研究室探訪vol.2 [慶應義塾大学 青木研究室]青木 義満 教授,秋月 秀一 助教

あの研究室はどんな研究をしているのだろう? そんな疑問に答える“研究室探訪”。
今回は,慶應義塾大学 青木研究室にお伺いしました。

人工知能を使った画像からの認識技術を実世界と実利用に密着した,社会に役立つ研究へ

主に視覚センサーから得られる視覚情報を対象として,画像から意味のある情報を頑健に抽出・計測・認識するための画像センシング,機械学習,得られたセンシング情報からより複雑な事象の理解を目指すメディア理解,人の感覚・感性の計測・表現を実現するための技術など,画像メディアを対象とした人工知能(AI)技術についての研究を多角的に進めている。例えば,Deep Learningを駆使して映像中の人物を自動的に検出・追跡し,動作や行動を認識する研究成果,精密画像計測の研究成果などは,マシンビジョン,セキュリティ,スポーツ映像解析,高齢者の見守りの現場において実用化されている。画像センシングに関する研究は,社会や産業の現場において,画像を処理したい目的や具体的なニーズがあって初めて生まれてくるものである。当研究室ではこの点を重視し,企業や他分野の研究機関と密に連携し,実社会との繋がりを常に意識しながら日々の研究に取り組んでいる。

青木 義満 教授
主として知的メディア処理,画像センシング,人工知能,パターン認識に従事。工学博士。画像技術に合わせて対象に関する物理的な知見を導入しながら,単なる学理と実験システムの構築と留まらず,社会貢献を強く意識した基礎研究から応用研究までを幅広く探求している。博士(工学)。

秋月 秀一 助教
画像中に存在する物体の認識に関する研究を行っている。特にロボットアームによる物体操作のための技術開発を推進しており,製造業における部品ピッキングのための姿勢推定技術や,生活支援ロボットの実用化技術に関する研究に取り組んでいる。博士(情報科学)。

[研究テーマ1] 画像認識技術を活用したラグビー映像解析と戦術分析支援

 研究室の特徴として,企業との共同研究が多く,これもそのうちのひとつ。戦術解析に使うため,1台のハンディカメラで撮った映像から,フィールドのライン等をランドマークとして用いて,ディープラーニングで検出した選手やボールの位置をフィールド上にマッピングする。また,得られた選手やボールの動きから,パス,キック,ラン,スクラムなどのプレーの自動認識を行い,アナリストの戦術分析作業の支援をする研究。2019年のラグビーワールドカップや2020年の東京オリンピック等での実用化へ向けて,研究を進めている。


[研究テーマ2] ヒヤリハットデータからの事故危険因子の抽出

 センサーを車に積んで,どこに人や車がいるか,道路は何車線かといった周辺の情報はセンシング技術も進んでかなりデータが取れるようになってきているので,それを前提条件として,次の段階へ研究を進めている。それは,危険な状況を事前に察知するシステムである。人間が運転しているときに,周辺のシチュエーションに応じて,注意度合いが変わるように,できるだけ多くのセンサーデータを入力して,ドライバーにより近い,センサーデータを総合的に判断して,どのあたりに危険な要因がありそうかというのを見つけ出すシステムが今後重要になるであろう。そこで,実際の事故寸前の危険な状況における映像とセンサーデータを集めた「ヒヤリハットデータベース」を用い,機械学習によって危険度の推定と,危険因子の抽出を行う研究をしている。


[研究テーマ3] ロボットに新しい知覚機能を与える

 物体検出・姿勢認識の性能が向上し,産業分野において実用化が進んでいる今,知能ロボットに求められるタスクは,単に認識した物体を掴み上げるだけでなく,人間のように道具を使用するなど,さらに高度な動作を実行することである。これができれば生活支援・サービス等,様々な適用先が開けていくと考えられる。そのために人間と物体の両方の動作履歴を解析し,物体の取り扱い方やその機能をロボットが解釈可能な形によって記述するための研究を行っている。


青木研究室より

 物体や人が高精度に認識できるようになったとはいえ,コンピュータービジョン分野でやりたいことを考えたときに,まだ入口に立ったばかりである。人間と同じように状況を理解するためには,まだ課題がたくさん出てくる。世の中で思っているAIに対する期待と実際の現場でのレベルが乖離している状況をどんどん実用的な方面にもっていくために,基礎研究から応用研究まで展開する中で,やみくもに学術性のみを追求するのではなく,画像センシング技術の実利用化を常に意識し,実社会との繋がりを強く保ちながら,新しい概念・技術・価値の創出を目指していく。

青木 義満 教授

慶應義塾大学 青木研究室
慶應義塾大学 理工学部矢上キャンパス
住所:〒223-8522 神奈川県横浜市港北区日吉3-14-1 24棟307
TEL:045-566-1796
E-mail:aoki@elec.keio.ac.jp
URL:http://www.aoki-medialab.jp/

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