セミナーレポート
QoL向上のためのメディア認識・理解技術東京大学 大学院情報理工学系研究科 電子情報学専攻 山崎 俊彦
本記事は、画像センシング展2019にて開催された誰にでもわかる特別講演を記事化したものになります。
IoTとAIで住み心地などの不動産の評価が可能に
最後に,IoTとAIを用いた不動産情報処理の事例を紹介します。不動産を選ぶ際に,場所や値段,間取りなどは不動産のポータルサイトなどに情報が出ています。ただし,日当たりや断熱性,騒音,振動などの住み心地の情報に関してはほとんどありません。そこで,保育園で使ったIoTセンサーを応用し,多くの不動産業者に協力をいただいて,全国110物件で住み心地センシングを行いました。その結果,我々がいかに不動産物件に思い込みをしていたかがわかりました。例えば,泉岳寺の中古マンションの同じ列,同じ間取りの3階と10階で,日が入る窓がある部屋と,窓の一切ない日の入らない部屋のどっちが冬場暖かいかを聞いてみると,プロの不動産屋さんでも8割くらいは窓のある部屋と答えます。しかし,測ってみると,日が入る窓のある部屋の方が全体的に寒く,昼夜の寒暖差も非常にあります。それに対して,どこにも窓のない部屋は暖かく,昼と夜の温度差もありません。これは,窓があることで外気と熱交換をしてしまっているのです。きっと断熱性能の悪い構造や素材となっているのであろう,ということがわかります。また,3階と10階では10階のほうが明るく,朝の日が入る時間に2時間くらいの差があることがわかりました。下層階の部屋は道路を挟んだ向かいのビルの影響を受けているのです。
品川の線路沿いの物件の騒音も調べてみました。5階は線路側,14階は線路と反対を向いています。測ってみると14階は閑静な環境にある泉岳寺の物件と同程度の騒音でしかないことがわかりました。「線路に近いから」という理由でもし家賃が低く設定されているのであればお値打ち物の物件と言えるかもしれません。ちなみに,線路に面した物件は想像通りの騒音でした。
さらに,物件の断熱性能では,1996年に建てられた軽量鉄骨のアパートと,2015年に建てられた木造のアパートの比較では,意外にも木造のアパートが断熱性能が桁違いに高いことがわかりました。このように,一つひとつの物件の性能を可視化することで,住み心地を定量的に評価することができます。また,中古物件の売買やリノベーションの品質評価としても用いることができると期待しています。
ほかにも,AIの事例では,深層学習を使い,物件の間取り図をグラフ構造に自動で変換するものがあります。現在,80~90%の精度で認識できます。これを使うことで,従来の不動産サイトではできなかった類似する間取りをもった物件を検索することができるとともに,リノベーションなどのための使いやすい間取りの可視化が可能になります。
東京大学 大学院情報理工学系研究科 電子情報学専攻 山崎 俊彦
東京大学工学部電子工学科卒業。東京大学工学系研究科電子工学専攻修了。博士(工学)。現在,東京大学大学院情報理工学系研究科電子情報学専攻准教授。
マルチメディア処理,画像認識・理解,機械学習,最適化などの基礎的な研究のほか,人が感じる「魅力」の予測・解析・増強などを行う「魅力工学」の研究を行っている。