セミナーレポート

QoL向上のためのメディア認識・理解技術東京大学 大学院情報理工学系研究科 電子情報学専攻 山崎 俊彦

本記事は、画像センシング展2019にて開催された誰にでもわかる特別講演を記事化したものになります。

AIの深層学習を用い,子ども一人ひとりの行動を分析

 保育環境の「見える化」では,各部屋の四隅にカメラを設置し,3種類の深層学習の技術をつなぎ合わせ,AIによる行動分析を行っています。1つ目は,OpenPoseを用いた人物検出,姿勢推定です。ただし,最新の深層学習の力でも,問題なく追跡し続けられるのは数十秒から数分くらいです。また,1つのカメラの視野角から出て戻ってくると,同じIDが付かなくなるという問題があります。そこで,2つ目に,短時間の人物追跡を行うための深層学習を入れています。その後,3つ目に,人物再同定のための深層学習の技術を使い,同じ子どもには同じIDを与えることで,長時間の人物追跡を実現しています。
 人物を自動で追跡するこのシステムを使うことで,一人ひとりの1日の動線を描くことができます。また,人がどこに滞留しやすいか,そこに危ないものはないかといったヒートマップもわかります。これは,オフィスや工場の中などにも展開できます。
 保育園では,子ども一人ひとり,先生一人ひとりが,誰とどれくらいの時間,かかわっていたのかも可視化しました。これにより,子どもの発達の状態やコミュニケーション能力の解析ができると期待しています。また,感染性の病気が園内で発生したときに,例えば過去3日以内に濃厚に接触した可能性のある子どもを検索することも可能になります。さらに,午睡時のうつぶせ寝の状態にある子ども検出し,アラートを出すこともできます。
 今後考えているのは,1つ目は,子どもの語彙数やコミュニケーション能力など,認知能力・非認知能力の可視化への応用です。母子手帳にある標準身長・体重のグラフと同様にして,そられの能力を可視化できれば保育者・保護者らの手助けになるのではないかと考えています。2つ目は,介護老人保健施設などでのMCI(軽度認知障害)の早期発見・対策への応用や見守り支援です。MCIになると一例として歩く速度が落ちると言われており,日々の測定の中で,歩く速度が落ちてきた人への早めの対応が可能になります。

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東京大学 大学院情報理工学系研究科 電子情報学専攻 山崎 俊彦

東京大学工学部電子工学科卒業。東京大学工学系研究科電子工学専攻修了。博士(工学)。
現在,東京大学大学院情報理工学系研究科電子情報学専攻准教授。
マルチメディア処理,画像認識・理解,機械学習,最適化などの基礎的な研究のほか,人が感じる「魅力」の予測・解析・増強などを行う「魅力工学」の研究を行っている。

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