セミナーレポート

誰にでも分かる,サービス現場でのユーザー特性の画像センシング技術 ~ユーザーの体形,運動,行動センシング~産業技術総合研究所 持丸 正明

本記事は、画像センシング展2010にて開催された特別招待講演プレインタビューを記事化したものになります。

大企業と中小企業の役割が逆転


持丸:さらに言うと,そういう状況下で,大企業と中小企業の立場も入れ替わると思っています。大企業は,今言った非常にたくさんの顧客データによるコンテンツを集めるとともに,さまざまな顧客に対応できる量産品のモジュールを用意するようになります。しかし,顧客それぞれに正確に対応するようなビジネスにはたぶん耐えられないので,そうした大企業が作ったモジュールをカスタマイズして組み合わせ,販売する中小企業が出て来ます。
 つまり,今までは,部品は中小企業が作って大企業がそれらを組み立てていたわけですが,今度は,大企業が製品のコンポーネントを作って,最後に中小企業が顧客情報を元に組み立てるという構造になる。販売のフロントエンドに中小企業が立つことになるのですが,中小企業がばらばらに顧客データを持つとコンポーネントづくりに支障を来すので,これらのデータを大企業が吸い上げて,それを再度,中小企業に回すようになるのではないかと思っています。

聞き手:それを聞いて思い出したのが,ハーレーダビッドソンという米国最大のオートバイメーカーと,その周りに多く存在しているガレージビルダーと呼ばれる中小のオートバイメーカーのことです。ハーレー自体は量産メーカーとして数多くの車種を開発・製造・販売しているのですが,顧客の嗜好が大きく分化している趣味の世界なので,量産品で満足しない顧客に応えるのがそれらガレージビルダーの役目です。ガレージビルダーは,基本的にオートバイ本体はハーレーのものを利用して,顧客ニーズに合わせてカスタマイズして販売するというビジネス形式です。

持丸:まさしく,わたしの言った大企業と中小企業の関係ですね。しかし,そこに逆向きの流れがさらに加わるべきだ,とわたしは考えます。パーツを組み立てるガレージメーカーの顧客情報がハーレーに流れるということです。そうすると,「こんなコンポーネントを作れば,もっと多様な顧客に対応できるはずだ」という情報がハーレーに大量に集まって来ます。負けずに日本企業がこうした流れをうまく作っていくことができれば,少し新しい日本型の,価格競争ではなく性能競争でもない,「顧客満足競争」のような仕組みができると思います。

聞き手:そういう芽はありそうですね。日本人の気質として。

持丸:今,われわれも大枠としてそのようなことを考えながら,企業といろいろ話をしています。画像センシング展の当日も事例をいくつか紹介しますが,そういう中でヒトのセンシングを使って,どうやってコンテンツを集めていくか,どうやって産業に流していくか,というところが少しずつ動き始めたような感じです。

聞き手:先日,あるレーザーメーカーの社長さんにお話をうかがいに行ったのですが,その際に社長さんが「日本人の心の襞(ひだ)」という言葉を使われました。「日本人には日本人ならではの心の襞があって,それは欧米人にない素晴らしいものだ」というお話でした。そういうものをビジネスやものづくりに活用できれば,それこそが日本のやり方なのではないかということでした。

持丸:そうですね,それはわたしも期待しているところです。日本というとハイテクの印象がすごく強く感じられますが,中国で「日本式」を表す「日式」という言葉の下に付く単語として一番多いのは,実は「服務(サービス)」なのです。つまり,「日本式サービス」のことです。「おもてなし」ということですね。中国で強い日本のイメージは,実はおもてなしだったりするのです。例えば,車のディーラーなどには「日式服務」と大々的に書いてあります。「うちは日本的にちゃんとお出迎えして,お茶を出して,○○をサービスできるサービス業ですよ」という宣伝に使っているのです。そういうことが海外で認識されているぐらい,われわれはきめ細やかな気遣いや気づきができる国民性を持っているのかもしれません。
 「センシングが研究室から産業へ,産業からサービスへ,サービスから生活現場へ」と流れていくのは,ある意味,そういうことです。設計現場から購買現場へ,購買現場から使用現場へ入って行き,製品が人にどう使われているかという情報をセンシングして,それをコンテンツ化してまたものづくりに生かす。そこに新しいセンシング技術が入ってきて,末端に行けば行くほど,低コストで運用が楽で,精度は低いけれども少ない情報からたくさんの情報を復元できるような仕掛けが組み込まれる。その仕掛けを持てるのはリッチなデータを精密に持っているからという,そういう枠組みです。

聞き手:本日は,とても興味深い話をありがとうございました。画像センシング展でのイメージセンシングセミナーの講演を大変期待しています。

産業技術総合研究所 持丸 正明

1993年,慶應義塾大学大学院 生体医工学専攻 博士課程修了。博士(工学)。同年,工業技術院生命工学工業技術研究所入所。組織改編により2001年より産業技術総合研究所。デジタルヒューマン研究ラボ副ラボ長。2010年,デジタルヒューマン工学研究センター センター長。および,サービス工学研究センターのセンター長を兼務。計測自動制御学会,日本人間工学会,IEEEなどの会員。人体の形状,運動の計測とモデル化,産業応用に関する研究に従事。

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