セミナーレポート

誰にでも分かる,サービス現場でのユーザー特性の画像センシング技術 ~ユーザーの体形,運動,行動センシング~産業技術総合研究所 持丸 正明

本記事は、画像センシング展2010にて開催された特別招待講演プレインタビューを記事化したものになります。

制御できる変数のないデータはコンテンツにならない

聞き手:わたし自身も大変興味のあるお話です。以前,わたしが会員制のウェブサイトの担当をしていた時に,ウェブ上でユーザーの「ライフログ」が取れるのではないかと考えた時期がありました。会員登録データとウェブログを結びつければ,比較的簡単にユーザーの属性と行動を把握することができます。これはマーケティング的にいうと,大変貴重な財産になるのではないかと考えていました。ただ実際には,思ったようなことの何分の一もできなかったのですが……。


持丸:わたしの言いたいこともそういうことなんです。ただ,「実際にはできていない」というところが大事ですね。厳しいことを言うと,ログはデータで,データは「負債」なんです。それを持っているだけでハードディスクも要るし,セキュリティーも必要になる。問題は,それを「コンテンツ」にできるかどうかです。
 例えば,うちのサイトのログを分析したら,ユーザーのライフスタイルは12個のカテゴリーに分けられることが分かったとしましょう。1番のカテゴリーのユーザーは,「こういう食事が好きで,こんなものを買うライフスタイルの人で,日曜日の暮らし方はこんなタイプ」ということが分かったとすると,それに対してサイトの運営側からレコメンデーション(お勧めのコンテンツを提示するアクション)がかけられるわけです。
 つまり,先のログデータのようにデータが大量にあるのはいいけれど,確かにそれはダイヤの原石だけれど,それを持っているだけでは金庫に保管するなどのコストがかかるばかりでダイヤとしての価値は生み出せないのです。同じように,われわれがデジタルヒューマンモデリングと呼んでいる手法でも,いかにそこから得るデータを製品設計に使えるように,マーケティングに使えるようにモデル化するかというところが大事で,これらは両輪だと思っています。

聞き手:どうしたらコンテンツにできるのでしょうか?

持丸:一つは,データの中にダイヤモンドを入れておくことです。二つ目は,それをきちんと使えるようにする技術が大切。先ほど言ったモデル化の技術のことですね。
 「ダイヤモンドを入れておく」というのはどういうことかというと,正しくは,「ダイヤモンドになる作用をもたらすデータセットを入れておく」ということです。健康のデータを例にとって説明しましょう。健康診断のデータとその人の属性を組み合わせることはよくあることですね。病院や診察機関は,そうしたデータをたくさん持っています。例えば,「50歳になると血圧が高くなる」という一般的な見解があるとします。でも,50歳以上の人がなんとか血圧を下げたいと思った時に,それだけのデータでは「40歳になりなさい」という解決策しか示せません。でも,そんなのできませんよね(笑)。

 ところが,それに付随する個々人のライフスタイルのデータがあって,「1日どれぐらい歩いているか」とか,「どんな食事を摂っているか」というデータがあると,「50歳で血圧が全般的に高くなるが,こういう歩き方をしている人は2割ぐらい血圧が下がる」という事実が分かって,「歩き方を変える」という対策ができるようになります。つまり,制御できる変数が入っていないものはコンテンツになり得ないのです。
 例えば,「3歳の子どもは事故が多い」と言われてもどうしようもありませんよね。そうではなく,「背の高い家具が多い家にいる3歳の子どもは事故が多い」と言われれば,背の高い家具を減らすことで対策ができるようになります。そういうセットが必要なのです。ただデータがたくさんたまっていたからといってコンテンツにできるとは限りません。その上で,さらに何らかの形で類型化したり,設計に利用できるような形に持って行く。それができてくると,それとリンクしながら計測技術が出来上がっていくような気がしているのです。

聞き手:むやみやたらとデータを取って保存しておくのではなくて,最小限のデータでも需要はまかなえるかも知れませんね。

持丸:そうです。実はライフログとは,何でもかんでも全部取らなくてもいいのではないかということです。先の話のような12個の類型が分かって,それでレコメンデーションができるなら,類型を明らかにするための「どの段階でお風呂に入って,どの段階で○○する」という部分だけデータが取れればいいわけですから。
 ただし,ライフスタイルは年によって変わっていくから,例えば1,000人の別の集団では常にこの12個を14個にアップデートするためのリッチなデータを持っていて,それ以外の10万人は,割とラフなデータしか持っていなくても構いません。時代によってドンドン変わるデータを簡単に大量に測りつつ,一方で研究室用のリッチなデータというものも常に必要だという話です。

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産業技術総合研究所 持丸 正明

1993年,慶應義塾大学大学院 生体医工学専攻 博士課程修了。博士(工学)。同年,工業技術院生命工学工業技術研究所入所。組織改編により2001年より産業技術総合研究所。デジタルヒューマン研究ラボ副ラボ長。2010年,デジタルヒューマン工学研究センター センター長。および,サービス工学研究センターのセンター長を兼務。計測自動制御学会,日本人間工学会,IEEEなどの会員。人体の形状,運動の計測とモデル化,産業応用に関する研究に従事。

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