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いいものはいいと評価されるのが 一番難しい有限会社 高度技術研究所 代表取締役 清水 勲

明るい所で振動があっても大丈夫なテーマへ

清水:ホログラムの作成ですが,高専の学生というのは,ようは高校の1年から大学の2年までの年ごろです。だから,ホログラムを作るのに暗室に入って,黙って静かにしていて振動もさせないようにというのが,えらい大変なのです。もうじっとしていられない。それでそんなのは駄目だと。明るい所で振動があっても大丈夫なテーマがいいというので,光導電プラスチックの研究をはじめました。
 ホログラムの自動現像器を作り,半導体レーザーを一緒にレールの上に乗せてボタンを1つ押すと自動的に現像できるホログラム現像機を作りました。それを使ってホログラムの乾板を作るとマッチトフィルターといって,いろんな形状の識別がいっぺんにできます。普通は1枚のフィルターで,1つの形状しか識別できないのですが,私はそんなものは面白くないと思い,1枚のフィルターでいろんな形状をいっぺんに識別できる,そういう方法を考え,多重マッチトフィルターとして生み出しました。役に立つから「使ってください」と言ったんですけど誰も使ってくれていません。もう20年たちますが,いまだに使ってもらってないですね。
 マッチトフィルターというものを知ったのは,珪藻類という藻がありますが,その検査のために,いろんな形状をどうやって識別するかという文献からです。それでそれをちょっとやってみたのですが,ホログラムを作りながら眺めていると1つじゃなくて,例えば物体が2つあるとホログラムの中心に,その2つの物体の回折パターンがあるのです。そこで「回折パターンが1点に,いろんなやつがいっぺんに重なるから,多重というか,いろんな形状がいっぺんに識別できると思う」と言ってみたところ,みなさん「そんなことは聞いたことがない」と言うのです。私は本当にばかなものですから。聞いたことがないと言われると,ちょっとやってみようと考えて,学生と一緒に実験してみました。すると,こちらの思ったとおり,AとBの2種類の文字が1枚のフィルタで識別され,それぞれの位置も点対象に計測されたのです。
 これを,実験結果だけではなく理論的に解析しようとしたところ,卒業研究生がきれいな数式に載せて,立派な論文になりました。

高専学生には才能のある人間がたくさんいた

清水:高専には才能のある人間がたくさんいます。先ほどの学生のほかにも,プログラム,例えば,画像処理ソフトなんかをやらせると,本当にすごいソフトを作る学生がいます。ディーゼル噴霧にレーザー光を当てて,透過画像を撮り,もう一方は反射の画像を撮り,2つの画像を重ね合わせると中の濃度が計算できます。外側からタマネギの皮のように切っていって,内側ではどのぐらいの濃度があるかという,そんな計算のプログラムソフトを,二十歳の学生が作るのです。そんな才能のある学生がいっぱいいました。
 こういった才能のある学生を受け入れてくれる大学というのは初めのころは非常に少なくて,彼らは苦労して一年遅れで大学に編入していきました。その後,だんだん高専から大学にストレートに行けるようになりましたが,当時はそんな変な教育システムで,学生も苦労するし,私どももこんちくしょうと思っておりました。
 私が国外に行くと,「カレッジの先生がどうしてそんな研究をしているんだ」とヨーロッパの人に言われたりします。「ユニバーシティーの先生がそういうふうな研究をするのは分かるけど,なぜカレッジでこんな研究をするんだ」と。どうも,ヨーロッパのほうもカレッジではあんまり研究しないらしいのです。そんなの関係なしでやってきましたが,学生も私どもも苦労しました。 <次ページへ続く>
清水 勲

清水 勲(しみず・いさお)

1940年 神戸市生まれ,島根県育ち(戦争のため母方の故郷に疎開) 1966年 茨城大学 工学部 精密工学科卒 1966年 茨城工業高等専門学校 機械工学科 助手 1974年 茨城工業高等専門学校 機械工学科 講師 1977年 茨城工業高等専門学校機械工学科 助教授 1983年 工学博士(東京工業大学) 1988年 茨城工業高等専門学校 機械システム工学科 教授 2004年 茨城工業高等専門学校 定年退官 名誉教授 2004年 (有)高度技術研究所 技術統括取締役 2016年 (有)高度技術研究所 代表取締役
●研究分野
応用物理学,工学基礎,応用光学,量子光工学,電気電子工学,計測工学
●主な活動・受賞歴等
1977年 日本機械学会,燃焼に関するレーザ計測分科会 初代幹事 2001年 NPO法人「なかなかワーク」設立 代表幹事 2002年 ひたちなか圏新産業推進委員長 2003年「新エネルギーフォーラム」創立 1988年 エアロゾル研究協議会第1回会長賞 1995年 日本空気清浄協会会長奨励賞 1997年 日本空気清浄協会会長奨励賞 2001年 日本空気清浄協会会長奨励賞
●(有)高度技術研究所について
(有)高度技術研究所(RIAT)は,光計測技術を基盤とした研究開発型の企業。独創的で優美・有用な技術・システムの開発,人々を幸せにする技術・システムの創生を目標としている。iPS細胞検査に使われる大視野レーザ位相差顕微鏡など,独創的な技術開発を行っている。
(有)高度技術研究所webサイト http://www.riat.co.jp/

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