【重要】技術情報誌『O plus E』休刊のお知らせ

いいものはいいと評価されるのが 一番難しい有限会社 高度技術研究所 代表取締役 清水 勲

ものを知らないとは恐ろしい

清水:それでホログラムを作ろうとしたのですが,何しろ何にも知らないものですから,何回やってもホログラムができないというのです。それで茨城大学に赴任してきた若い先生で,学生時代にホログラムをつくった経験のある方にやり方を教わり,それでやっとできたのです。
 それまでは,振動があるとうまくできないので除振台として車のタイヤを使ったり,いやタイヤじゃなくてチューブがいいとか,新聞を折ったほうがいいとか,そんな感じで文献を読みながらやっていたのですが全然うまくいかない。何が悪かったかというと,どこが揺れていて,物体とレーザーの間の関係がどうなっているのかを理解していなかった。つまり,本当のホログラムというのが,どうやってできるかということを知らなかったのです。
 誰かが作っているのを見たら,なんだ,簡単だとなりますが,だけど,どこが本当は悪いとか,どこが重要なのかとかは,よくわかっていないことが多い。「こうやればできる」と言うんです。確かにそうやるとできるんですよね。でも,後でよく考えてみたら,何も除振台とか,立派なレーザーで一生懸命お金を使わなくても,ホログラム作成は緩衝性があって振動が入らなければいい。振動が入らないためにはレーザーと物体と,それから受光器が1本の線でつながっていて,それが一緒に動けば問題ないだろう。1本のレールの上に,光源から何からみんな一緒に置いてみると,近くでブルドーザーが動いていても全く関係なくホログラムができるのです。
 ものを知らないということは恐ろしいことで,そういうことに2年ぐらいかかりました。なんでできないんだろうと思って,本当に余分なことばかりやりました。一番大事な所,どこがポイントかというのが,要するに,頭の中で理解できなかった。逆に,それさえしっかりと理解できていれば,その辺りにあるいろんなものを使って何でもできるということが分かりまして,それで少し気が楽になりました。

少しぐらい金がなくてもなにかできる

清水:その後,アメリカのミシガン大学に在外研究に行く事ができました。そこでは世界で初めてレーザーホログラムを作った先生の研究室が隣でした。そこで実験を見せてもらうと,1ミリワットもない弱いレーザーを使い,石の定盤上にレンズホルダを置いて,ホルダと定盤はビニールテープで貼り付けて固定していました。マグネットスタンドを固定する鉄の定盤が無いのです。レーザー光が弱いので,できたホログラムは顕微鏡で拡大して出来を確かめていました。立派なレーザーがないとホログラムができないと思っていたら,そんなことはないのです。金がなくても物ができるというので,頭がいいなと。それから,少しぐらい金がなくてもなにかできるなと思って気が強くなりました。あれは本当にすごい経験をさせてもらいました。世界にはそういう人がいます。
 またちょうどそのころ,私は日本機械学会のレーザー計測分科会に属していましたので,アメリカやヨーロッパにもいろいろつながりがありました。「清水は日本の代表だから,われわれのツアーに加われ」と言われ,アメリカの研究者ツアーにも参加しました。その時に訪れたワシントンD.C.では,レーザーマニピュレーションの研究をしており,初めて実験をするというので見学しました。
 レーザー光を下からビューっと上に放ちまして,油の粒を上から落とします。そうすると上から落ちてきた油の粒がレーザーの集光点に掴まって,ビッと空中に止まるのです。それで緑の回折光が部屋全体にワーッと散るのです。それの素晴らしいこと。それを見て仰天しまして。日本に帰ってきてやりたいと思ったのですが,そのためには新しいレーザーを買わなきゃいけない。貧乏な高専にはないのです。そうしたらたまたま宙に浮いていた予算が,たしか1,500万だったかな?を文部省(当時)が使える人を探しているというのが耳に入ったのです。いろんな所に話が行っていたようですが,ひと月かそこらのうちに使い切ることが条件で,そんなすぐには使えないということでなかなか手を挙げるところが無かったのです。それで手を挙げてすぐにレーザーを購入して,レーザーマニピュレーションをやってみました。初めは大変でした。というか,できませんでした。そのことを聞いた電気科の学生が,卒業研究に行きたいというので機械科の私の所へやってきたんです。それで一生懸命やりまして,とうとう成功しました。美しい模様が出てきまして,空中で掴まえたものが動かないのです。するすると粒子が下からレーザー光の集光点に上がるのですが,それは美しいです。光というものは,変な所に美しいものがあるのです。そんなことで学生さんにも助けられながら,遊びながら研究をやっていました。 <次ページへ続く>
清水 勲

清水 勲(しみず・いさお)

1940年 神戸市生まれ,島根県育ち(戦争のため母方の故郷に疎開) 1966年 茨城大学 工学部 精密工学科卒 1966年 茨城工業高等専門学校 機械工学科 助手 1974年 茨城工業高等専門学校 機械工学科 講師 1977年 茨城工業高等専門学校機械工学科 助教授 1983年 工学博士(東京工業大学) 1988年 茨城工業高等専門学校 機械システム工学科 教授 2004年 茨城工業高等専門学校 定年退官 名誉教授 2004年 (有)高度技術研究所 技術統括取締役 2016年 (有)高度技術研究所 代表取締役
●研究分野
応用物理学,工学基礎,応用光学,量子光工学,電気電子工学,計測工学
●主な活動・受賞歴等
1977年 日本機械学会,燃焼に関するレーザ計測分科会 初代幹事 2001年 NPO法人「なかなかワーク」設立 代表幹事 2002年 ひたちなか圏新産業推進委員長 2003年「新エネルギーフォーラム」創立 1988年 エアロゾル研究協議会第1回会長賞 1995年 日本空気清浄協会会長奨励賞 1997年 日本空気清浄協会会長奨励賞 2001年 日本空気清浄協会会長奨励賞
●(有)高度技術研究所について
(有)高度技術研究所(RIAT)は,光計測技術を基盤とした研究開発型の企業。独創的で優美・有用な技術・システムの開発,人々を幸せにする技術・システムの創生を目標としている。iPS細胞検査に使われる大視野レーザ位相差顕微鏡など,独創的な技術開発を行っている。
(有)高度技術研究所webサイト http://www.riat.co.jp/

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