セミナーレポート

知能ロボットのための画像センシング技術の基礎と研究事例中京大学 工学部 教授・ヒューマンロボティクス研究 センター長 橋本 学

本記事は、画像センシング展2022にて開催された特別招待講演を記事化したものになります。

画素選択型テンプレートマッチングと対象物の「機能」を利用した動作生成

 ここからは,私たちの研究事例を紹介します。まずは,2次元画像センシングです。私たちの研究室で,この10年来力を入れている新しいタイプのテンプレートマッチングに,画素選択型テンプレートマッチングがあります。従来のマッチングは,テンプレート画像中のすべての画素を使用していましたが,それに対して,ある種の戦略に基づいて極めて少数画素を選択し,特殊な性質をもつ画素だけを使用することが特徴です。これにより,マッチングアルゴリズムに様々な能力をもたせることができ,しかも,画素数の削減率に比例して大幅にマッチングを高速化できます。また,オフライン的に事前に有効画素群が選択されれば,オンラインの現場では,カメラからどんどん入力されてくる生画像をそのまま未加工でマッチングに使用することができることから,高速処理に向いているという利点もあります。当然,この計算においては,特殊なGPUなども不要です。
 有効画素を選択するための基本的なアイディアとしては,テンプレート画像中から独自性の高い画素だけを選択して使用するというものです。ここで「独自性」は,画素ペアの発生確率をもとに評価されます。すなわち,発生確率が低い画素ほど,独自性が高いと判断され,マッチングに向いていると考えるのです。
 この基本的な考え方以外にも,私たちは,様々な戦略を考え,これまでにたくさんの関連技術を作ってきました。例えば,照明変動の影響を受けにくい画素を選択すれば照明変動に強いマッチングが実現しますし,周辺対象物との識別能力の高い画素を意図的に選択すれば,そのような性能が得られるのです。このように,戦略ごとに,それに向いた画素群を選ぶことができます。
 工場現場では,複数の対象物を一度に見つけたいというニーズもあります。通常のテンプレートマッチングでは,複数の対象物を見つけたいときには,対象物ごとにテンプレートを総当たり的に探索します。私たちは,複数の物体に対するクラス識別能力が高い画素群を選択することによって,たった1枚のテンプレートを使って1回スキャンするだけで,複数種類の物体を識別しながら検出する技術も開発しました。また,回転問題もテンプレートマッチングでは課題になっていることから,一定の角度範囲のみ敏感な画素だけを選択することによって,パターンの回転に対する許容力を任意にコントロールする技術も開発しました。
 最後に,私たちの研究室における3D関係の最新研究にも簡単に触れておきます。対象物の「機能」を利用した動作生成を研究しています。日用品のもつ様々な機能,たとえば,「つかむ」「すくう」「たたく」など,部位ごとの「機能」を,機械学習ベースの画像認識手法を用いて推定することによって,ロボットが,「どこをつかむべきか」,「どこですくうべきか」のような情報を得ることができます。その結果,ロボットは,目の前にある道具の使い方を自ら考えることができ,その場その場で,タスク実行のための新しい動作の生成を円滑にできる技術を開発しています。

中京大学 工学部 教授・ヒューマンロボティクス研究 センター長 橋本 学

1987年 大阪大学 大学院 工学研究科修了。同年三菱電機(株)入社。生産技術研究所,先端技術総合研究所などにてロボットビジョン,知能ロボティクス,ヒューマン認識の研究開発に従事。2008年 中京大学 情報理工学部(現・工学部)教授。2017年より同大学工学部長,2021年より副学長,工学研究科長,ヒューマンロボティクス研究センター長。産業技術総合研究所 人工知能研究センター客員研究員,関西学院大学感性価値創造インスティテュート客員教授兼務。
1998年度日本ロボット学会実用化技術賞,2012/2017年度画像センシングシンポジウム優秀学術賞,2015年度精密工学会小田原賞,2018年度日本マテリアルハンドリング大賞技術賞,2019/2021年度IWAIT Best Paper Award等受賞。博士(工学)。

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