セミナーレポート
フロント技術を活用した新しい健康・医療支援への取り組み(株)富士通研究所 柳沼 義典
本記事は、画像センシング2016にて開催された誰にでもわかる特別講演を記事化したものになります。
診断支援に向けて様々な情報をハンドリングする基盤技術
フロントの技術が発達しますと,様々な情報が集まるようになります。それらをどうハンドリングしていくか。そのための基盤技術が必要になります。その一つとして,CT画像間の腫瘍の位置合わせ技術を開発しました。この技術を使うことで,過去に比べ腫瘍が大きくなったかどうかなどの迅速な判断をサポートすることが可能となり,読影医の作業負担の軽減が期待されます。加えて,大量画像の中から指定した画像に部分的にでも一致する画像を高速に検索する技術を開発しています。メディアサーバと呼ぶ,ある特定の画像処理機能に性能を特化させたサーバーを開発することで,1万枚以上の画像データベースから検索画像の任意の部分に一致する画像を1秒程度で検索できるようになりました。また,膨大なデータの解析ということでは,ゲノム上の変異情報と,疾患や生活習慣などによる環境情報との関連性をデータベース上で解析する際に,従来手法に比べて約400倍高速に処理するデータベース技術を開発しました。様々かつ大量なデータが得られたら,次にそれらのデータからいかにして新たな知見を獲得するかが重要となります。例えば,スペインのマドリードにあるサンカルロス病院との共同研究では,青年期の精神心理状態や躁鬱の患者についての情報,知見を蓄積,解析することで,うつ病発症の原因となる事象の解明を目指しています。同病院のカルテデータと,オープンデータと重ね合わせることで,例えば天気,風,月の満ち欠け,サッカーの試合結果などと,うつ病の患者数との相関関係を解析しています。スマートフォンを用いたものでは,スマートフォンのセンシングのデータからユーザーの習慣を抽出し,モデル化。行動を予測し,アシストする技術を開発しています。すでに弊社スマートフォンのArrowsに,アシストナビ,パーソナルアシストとして搭載しています。大量のデータの活用に際しては,セキュリティーも重要です。我々は,データをグルーピングし,あいまい化することで,どのようなキーで検索してもk個より小さいグループが生成できないk-匿名化技術や,複数組織のデータを異なる鍵で暗号化したまま照合可能な暗号技術を開発しています。
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(株)富士通研究所 柳沼 義典
株式会社富士通研究所に入社後,ニューラルネットワーク,並列計算機アプリケーション,データマイニングの研究開発に従事。1999年から2000年まで,英国Imperial College訪問研究員。
2009年よりヒューマンセントリックコンピューティングの技術開発,現在,次世代医療の実現に向けて研究開発を推進中。