光をどう使うかということを考えるような“本当の光学工業”の到来を期待したい。東京工業大学 像情報工学研究施設 辻内 順平
☆プライオリティ
そんな時にOTFの理論というのが来たんです。嬉しかったですね。あれは。あれを読んでね,目の前の霧が晴れるような感じで,夢中になって文献を読んだんです。大変楽しかったですね。それで収差から分解能を数値計算したんです。表面を10個のゾーンに分割して,コーリレーションですけどね,オートコーリレーション。当時は今日のようなコンピューターがありませんでしたからそれを手廻しのタイガー計算機でやったんです。役所でやってるだけでは間に合わなくてね,家へ持って帰ってやったんです。夜遅くまでガチャガチャ音がするものだから近所の人が何をやっているんだろうと不思議に思ったという話を後から聞いたんですけど。
その計算から出た結果を実験的にチェックする方法を考えてやってみたら大変よく合いましてね。もう1つは顕微鏡というのは照明の方法を変えると分解能がどんどん変るんです。それを式で導き出して,実験と計算をやったらその通りになる――そんな仕事もやったんです。
秋の応物のOTFシンポジウムになんとか間に合いましてね。発表したんですけど,久保田先生が非常にほめてくださいましてね,外に出せと言われて機械試験所の所報に出したり,浮田さんといっしょにOptica Actaに英語で書いたんです。当時その雑誌はフランスから出していたんですけど,その本屋さんが左前になってしまってイギリスに移る寸前で,2年間ホサれたんです。その間に残念ながらプライオリティをとられちゃったんです。おそらく世界で一番早かったと思うんですけど,発表が遅くなってしまって……それで私はこりたんです。いい仕事だと自分が思ったら発表をうまくしないと損をするぞという気がしたんです。それで私は原則として外国の雑誌に書いているんです。反対する方もいるでしょうけれど……。
☆日仏学院へ通って留学生試験を受けた。
それから収差のあるレンズを簡単な方法で補正することはできないかということを考えまして……収差の測定をやってた時の干渉縞の写真――あれをレンズのフィルターとして使ったらどうなるんだろうと考えたんです。その実験をやったんですけど,なかなかうまくいかなくてね。それで計算をしたら,かなり収差が補正されるという結果が出ましてね。これは面白いと思ってしばらくやったんです。そしたらうまい関係がつかめましてね。さらに,それの特殊なケースとして二重焦点のフィルターもやったんです。で,どんなレンズでも補正できることが分ったんですけど,完全に補正できなくて,どうしてもちょっと残るんです。それを何とかして取れないかということが残ってまして,でき上がった写真をいじくって,良くする方法というのがあるはずだと思ったんですが,あったんです。フランスでやっていたんです。これはピントがはずれてボケた写真を良くするということではなく,コントラストの悪い写真を良くする方法という短いpaperが,フランスの学士院の報告に載っていたんです。それをたまたま見つけてね。光学ニュースの抄録に書いたんです。その当時の私のフランス語は幼稚でして,パーシャルコヒーレントだとか,インコヒーレントとかいう言葉がいっぱい出るものですから大変面白かったんですが,随分苦労して読んで書いたんです。そしたら抄録委員長の石黒先生から,ちょっと分りにくいから,もう少し文章を練りなおして出してくださいと注意されたんです。
自分でも何となく吹っ切れないものがあったものですから,また一生懸命読んだんです。それでようやく大変面白い方法であるということが分りましてね。これをぜひやってみたいと思ったわけです。
ちょうどアメリカのボストン大学のオニールさんが全く同じ方法のpaperを出したんですが,その時アメリカに行ってた久保田先生からオニールさんのところへ行かないかと話がありまして。半分行くことになっていたんです。そしたらボストン大学の研究所がアイテックという会社に身売りしてしまって行けなくなってしまったんです。
じゃフランスだということでね。フランスへ行くために日仏学院へ通って留学生の試験を受けてようやく望みが達せられたんです。
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