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細胞と組織を水環境のままで観察できる電子顕微鏡ASEM産業技術総合研究所 佐藤 主税

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 水中の試料をそのまま高分解能で見るのは人の尽きせぬ夢である。だが,現実には,非常に難しいことが多い。この状況を打開するための我々のアプローチは,走査電子顕微鏡(走査電顕)である。というのは,軽元素でできた膜越しに水中のサンプルを電子線で走査すれば,反射電子が戻って来られる深さの内部情報を教えてくれるはずである。そこで,強靭なSiNの薄膜越しに,下から水の中のサンプルを見られる走査電顕を日本電子株式会社と共同で開発した。加速電圧が30 kVで,膜近くが8 nmの分解能で観察できた。
 ASEM(atmospheric scanning electron microscopy)と名づけられたこの電子顕微鏡は,分厚い水中や高さのあるサンプルでも,dish底の薄膜をとおして電子線スキャンを行い,加速電圧30 kVで電子が戻って来られる2~3 μmの厚さを水中環境で観察する(図1)1)。細胞や組織などのバイオ試料は,アルデヒドで固定後に,ラジカル除去剤のグルコース溶液中で低電子線量で観察できる。サンプル調製から観察まで水で抗原性が守られるため,一般に免疫電顕法に優れる。物性試料も,電気化学反応や金属析出・ブラウン運動など,様々な動的な現象がmovieとして観察できる2)。
 このASEMを使用して,細胞のSTIM1センサーがCa2+を感知し凝集する様子を金免疫ラベルによって可視化した2)。小胞体の膜タンパク質STIM1は,細胞膜CRACイオンチャネルのCa2+センサーである。小胞体内のCa2+欠乏を感知すると,細胞膜近くに集結し,細胞膜の4量体のOrai1と結合することでCRACチャネルを開け,細胞外からCa2+を通す。実際に,Ca2+を枯渇させ固定後に観察すると,定常状態では小胞体全体に分散していたSTIM1は細胞膜近くに集合し,そこで1次元的につながる様子が初めて撮影された(図2(a)右端)2)。STIM1分子は非対称なので,前後に結合し,密集した活性型イオンチャネル超複合体を形成すると解釈される。
 組織の水中観察も容易である。人の骨は,常に微小領域で破壊と再生を繰り返しており, 2~5年ですべて新しく入れ替わる。大腿骨内の海綿骨で,破骨細胞が酸とcathepsin Kプロテアーゼを放出して,骨と骨内コラーゲンを壊しているシーンが抗cathepsin K抗体-金粒子(白点)ラベル後にASEMにより観察できた(図2(b))3)。骨は無染色で,周辺の細胞は重金属溶液による染色で観察できる。また,含水体積が複雑に入り組む組織観察にも威力を発揮する。内分泌腺の膵臓ランゲルハンス島で,ホルモン分泌に重要な小胞が血管に向けて放出されるシーン(図2(c))が観察できた2)。また,糖尿病による合併症の機構解明に重要な血管壁の肥厚現象の観察に向けて,2型糖尿病モデルマウスの毛細血管と通過する血球系細胞(図2(d))が観察された2)。今後,ASEMはバイオや物性の様々な現象を水中観察することが期待される。

参考文献

1)H. Nishiyama, M. Suga, et al., “Atmospheric scanning electron microscope observes cells and tissues in open medium through silicon nitride film”, J. Struct. Biol., Vol. 169, No. 3, pp. 438-449(2010)

2)佐藤主税, M. Nassirhadjyほか: “親水環境での電子顕微鏡:クライオ電顕とASEM組織観察”,表面と真空,Vol. 62, No. 4, pp. 198-204(2019)

3)C. Sato, D. Yamazaki, et al., “Calcium phosphate mineralization in bone tissues directly observed in aqueous liquid by atmospheric SEM (ASEM) without staining: microfluidics crystallization chamber and immuno-EM”, Scientific Reports, Vol. 9, No. 7352, pp. 1-13(2019)

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