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不可視光線東京工業大学 松谷 晃宏

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 「第6光の鉛筆」の不可視光線の項に, W. Herschel が61才の1800年に赤外線を発見したときの様子が書かれている1)。
 「彼は太陽を望遠鏡で観測するときに使う減光用カラーフィルターが,その種類によって光に対する「明るさの感覚」とは必ずしも対応しない「熱の感覚」を目に与えることを体験し,プリズムで分解した太陽のスペクトルに沿って水銀温度計を動かして,色が異なると加熱作用がどう変わるかを調べました。その結果,…赤色の外側の目に見えないところで…高い最大の温度上昇が得られました。…(中略)…彼はこの放射を「invisible light(不可視光線)」と名付けました。」
 それでは実験してみよう。頂角60度のプリズムとあり合わせの材料で図1のような実験道具を組み立てて,太陽光のスペクトルを投影する。吸収能を大きくするために液溜に黒色のテープを巻いた温度計を可視光線のスペクトルの上方と赤色の外側に置いてみると,赤色の外側でも温度が上昇していることがわかる。そこで,850 nmより長い波長の赤外線だけで撮影してみると,赤色の外側の温度計も赤外線で照らされているので一目瞭然というわけである。図2は,筆者のヴァイオリンを可視光線と近赤外線(950 nm以上)で撮影したものである。近赤外線ではヴァイオリンの表面に塗られたワニスを通して木材表面が見えてくる。不可視光線の方がよく見えることもある。見えないからといって何もないとは限らない。ところで,網膜に映っているはずなのに認識できていない場合があるのは誰にでも経験があることだろう。これは,都合の悪いことは見えないことにしているわけで,心の不可視光線とも言える。実験結果をこころの目で見ないようにするのは,都合の良いように解釈しないという意味で重要である。しかし,心眼と書けば真贋を見極められそうだ。物事を正しく見るということは実はとても難しいことである。“Le Petit Prince”の中で王子が出会った狐も,“on ne voit bien qu’avec le coeur. L’essentiel est invisible pour les yeux.” と言っている2)。

参考文献
1)鶴田匡夫,第6 光の鉛筆,アドコム・メディア,pp. 153-157(2003)
2)Antoine de Saint-Exupéry, Le Petit Prince, Chapitre XXI. 英訳では,“It is only with the heart that one can see rightly; what is essential is invisible to the eye.” となっている(“The Little Prince”, translated by K. Woods, William Heinemann Ltd London p. 68(1986))。

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空と偏光

2020.03.25

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東京工業大学 松谷 晃宏