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回折格子東京工業大学 松谷 晃宏

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 「光の鉛筆」の回折格子の項に,Fraunhoferが包括的な研究を行う37年前の1786年にRittenhouseが回折格子の動作原理を示唆した最初の学術論文からの抄訳がある1)。

 「絹のハンカチを通して遠方のランプを見たとき,光った点がごばん目状に分離して見える現象に私は興味をもった。もっと精度の高い実験を行う目的で,1/2インチ角の枠に等間隔平行に髪の毛を張ったものを考えた。……スリット状の開口を設けて外から光を導き,これを眼の直前においた格子を通して観察した。格子線がスリットと平行になるようにすると,スリットはいくつにも分離してみえた。中心部の3つはほぼ同じ明るさで,その両端にはほぼ同じ間隔をおいて,それよりも暗く,かつ色づいた像が並んでいた。これらを仔細に調べると,驚いたことに,赤い光の方が青い光よりも,中心部の明るい像から一層離れた方向に偏向していることが分かった。」

 それでは実験してみよう。洒落たランプが手元になかったので,単独光源として青色LEDを用いて,妻から借りた黒い絹のスカーフ越しに見たのが,図1である。Rittenhouseの言うように,ごばん目状に分離して見えることがわかる。Rittenhouseが使った回折格子は1インチ当たり106本の割合で,ネジを切った2本の真鍮棒に50~60本の髪の毛をピンと張ったものだったが,髪の毛を周期的に並べる代わりに,白い紙に黒いマジックで規則的に直線を描いて,カメラで複写してフィルムに縮小した周期パターンを転写しても同じ構造を作ることができる。この方法は,40年ほど前の天文愛好家向けの雑誌で紹介されており,当時中学生だった筆者は,これをミニコピーフィルムで複写し,硬調現像して製作した。図2は,自作した回折格子を望遠鏡の対物レンズの前に置いて撮影した三日月の様子である2)。この写真では,二次の回折像まで見ることができる。カメラのレンズの前に回折格子を置いて星空を撮影すれば,星座のスペクトル写真を撮影することができるので,赤い星と青い星のスペクトルの比較も容易である。図3は,オリオン座の散光星雲を筆者が自宅で撮影した写真で,Hα,Hβ,OIIIに対応する像が確認できる。三日月の連続スペクトルの写真と比較すれば,散光星雲の発光メカニズムは容易に理解されよう。
 実は,回折格子の縮小撮影の方法は,Rayleigh(1842-1919)も初期の研究で試みていたそうだ。当時の環境ではうまく行かなかったようだが,分光器の分解能の理論的研究を導くこととなった。実際に手を動かして,いろいろやって考えてみると,生きた知識になるというわけである。

参考文献
1)鶴田匡夫,光の鉛筆,アドコム・メディア,pp. 76-77(1998)
2)松谷晃宏,応用物理,Vol. 85, No. 7, p. 539(2016)

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