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ロケットによる太陽X線の高感度観測で見つけた「ナノフレア」宇宙航空研究開発機構 石川 真之介

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 太陽は可視光で明るく光り輝いている。可視光から見積もった太陽の温度はおよそ6000 ℃という高温である。しかし,太陽にはもっと高温な部分が存在し,別の波長の光を発している。コロナと呼ばれる希薄な大気の層がその1つである。コロナは数百万℃という高温で,X線を発している。コロナの性質を調べ,その成り立ちを明らかにするには,太陽のX線観測が重要な手段の1つである。
 X線で太陽を観測するというのは容易ではない。X線は地球大気で吸収されてしまい地上では観測できないため,我々から宇宙に出て行く必要がある。その方法の1つで,比較的低コストで行えるのが観測ロケット実験である。ロケットにX線観測機器を搭載して打ち上げ,落下するまでのわずか数分間で観測を行う。最新の技術をテストするために用いられる手法である。
 我々のグループは,カリフォルニア大学バークレー校およびNASAのグループとともに,高感度X線観測装置を開発し,ロケット実験Focusing Optics Solar X-ray Imager(FOXSI)を行った。これまでのX線観測では,特に波長の短いX線(硬X線)に注目する場合,光学系により集光することは技術的に困難だったため,感度の低い非集光型撮像を行っていた。FOXSIは太陽の硬X線を初めて集光撮像して高感度観測を行おうとするものであり,NASAによる高精度斜入射望遠鏡と,日本のチームが開発した低ノイズ半導体検出器の組み合わせにより高感度が実現された。
 図は,2014年12月に行われたFOXSI打ち上げ時のX線画像である。鮮明な赤色の画像は,ひので衛星により同時観測されたものであり,今回は水色の等高線に注目していただきたい。これがFOXSIによる硬X線の観測結果である。従来の観測装置では左上の硬X線源を検出することはできず,FOXSI の高感度による成果である。硬X線は,これまではフレアと呼ばれる爆発現象が起きているときのみ観測されてきた。しかし,この領域からはフレアを示すX線の増光は見られなかった。にもかかわらず,硬X線が見つかったのは初めてのことであり,分解不可能なほど微小なフレア(「ナノフレア」と呼ぶ)が多数起きていることを示唆する結果と考えられる。この結果は,今後コロナの成り立ちを解き明かすための大きなヒントになると期待している。

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