【重要】技術情報誌『O plus E』休刊のお知らせ

材料の超高速破壊を原子レベルで可視化大阪大学 尾崎 典雅

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 「巨大隕石の衝突により地球環境が劇的に変化し,恐竜は絶滅した・・・」 誰もがそのような話をどこかで聞いたことがあるだろう。それが事実であるかを確認する術はないが,例えば,2013年2月,ロシア上空で大爆発した隕石のニュースは,私たちの地球が高エネルギーの衝突現象にさらされてきたことを思い出させる。規模こそ異なるが,地球の周回軌道には無数の“宇宙ゴミ(スペースデブリ)”が存在し,秒速10 km/sを超えるものがあることも知られている。超高速衝突の問題は,頻繁に目にする現象ではないが,甚大で壊滅的被害が避けられるべき構造物やその材料において検討すべき課題である。
 材料に衝撃的な力を加えると,スポール破壊に代表される破断・破砕的な破壊が生じる。パルス圧縮波である衝撃波は,急激な圧縮の“立ち上がり”と“立ち下がり”が一体となって物質内部を伝搬している状態とみることができる。衝撃波の立ち上がり部分が材料の自由面に達すると,圧縮とは逆の引張波が生成し,衝撃波進行方向とは逆方向に伝播して圧縮状態を解放していく。この引張波と衝撃波の立ち下がり部分が,材料内部で出会うとき引張応力は最大となり,材料の破壊しきい値を超えると破断的破壊が生じる。これにより,しばしば材料の衝突面とは反対側の表面で深刻な破壊が生じ,超高速の破片が飛び散るなどの危険な現象が起きることが知られている。このような破壊現象を総称して,スポール破壊と呼ぶ。
 このような超高速の破壊現象は,その超高速性ゆえにミクロな知見を直接得ることは困難であった。また,動的な応力下における破断強度は構造体に用いられる材料の重要な特性のひとつにもかかわらず,超高速域の定量的なデータはほとんど得られなかった。我々は,パワーレーザーショック超高圧法とX線自由電子レーザーSACLAを用いた超高速X線回折法という最先端技術により,フェムト秒の時間分解能かつ原子レベルで超高速破壊現象を直接観察することに成功した。これにより,単位時間当たり10-9もの変化率で材料が変形する“歪み速度場”を可視化し,結晶構造中にサブミクロンレベルの亀裂が急激に集中・発生することで,高速衝突に特有の破断破壊に至ることを明らかにした。宇宙ステーションや航空機などの安全性向上や新高耐力材料の開発促進につながるなど,人と社会の安心と安全に資する貴重な知見が得られはじめている。

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