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狭帯域,近赤外熱輻射光源の開発 -熱エネルギーを太陽電池が効率良く発電可能な波長の光に変換-京都大学 野田 進

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 熱輻射現象は,物体を加熱するだけで光が放出される現象を意味し,これまで,白熱電球や赤外光源を始めとする様々な光源の根本原理として活用されてきた。この熱輻射は,文字通り,熱エネルギーを光に変換するため,投入されたエネルギーを光へと変換する効率は,原理的に極めて高い。ただし,通常の熱輻射は,その輻射帯域が,必要以上に極めて広いため,エネルギーの利用効率が低く,効率の低い光源と見なされて来た。ここで,もし,必要とする波長帯域の光のみを,エネルギーの損失なく輻射することが可能な熱輻射光源が実現できれば,極めてエネルギー利用効率の高い光源となりうることを意味する。すなわち,狭帯域な熱輻射光源が実現できれば,白熱電球のエネルギー利用効率の悪さの解消や,センサー用赤外光源の高効率化,さらには,太陽光をいったん熱に変えて,太陽電池が吸収しやすい波長の光のみを輻射して発電する高効率な熱光発電の実現が期待できる。
 図1は,高効率熱光発電の実現を目指して開発された,シリコン微細構造による狭帯域近赤外熱輻射光源の顕微鏡写真であり,図2は,本光源を1000℃に加熱したときに得られる輻射率スペクトルである。本光源では,シリコンのバンド間遷移に対応する電子の熱運動からの輻射が,ロッド型の光学共鳴構造で増強されることにより,近赤外帯域の熱輻射のみ増強される。従来の熱輻射制御技術においては,金属微細構造の光学共鳴による輻射の選択的増強が用いられてきた。しかし,不要な波長における輻射を広帯域にわたって抑制することは困難であり,その主な原因は金属中の自由電子が幅広い周波数帯域で熱運動することにあった。図1の構造では,真性シリコンを用いることで,バンド間遷移よりも長波長の光を生み出す電子の熱運動を極力抑制し,かつ,材料の充塡率の低いロッド型の共鳴構造を用いることで,共鳴波長以外での光・電子相互作用を抑制し,これによって近赤外域の必要波長のみで熱輻射を生じさせることに成功した。
 本光源を用いると,輻射される熱輻射を,太陽電池のバンドギャップよりも短波長側の狭い波長範囲に集中させることができるため,高効率の光電変換が期待できる。その結果,燃焼熱や太陽熱で熱輻射光源を加熱し,その輻射を太陽電池で電力に変換する熱光発電システムの効率の画期的な向上につながると期待される(図3)。

参考文献
T. Asano, M. Suemitsu, K. Hashimoto, M. De Zoysa, T. Shibahara, T. Tsutsumi, S. Noda, “Near-infrared-to-visible highly selective thermal emitters based on an intrinsic semiconductor,” Science Advances, vol.2, p.e1600499, 2016.

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