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光触媒を活性化するメカニズムの一端を解明神戸大学 大西 洋

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 現在私たちが利用するエネルギーの多くは石油などに由来しており,近い将来枯渇することが危惧されている。人工光合成は,太陽光と水から化学エネルギーをつくり出し,従来のエネルギーを代替する手段として注目され,さまざまな研究が行われている。中でも盛んに研究されているのが,天然に存在しない水素ガスを光触媒によって水から取り出す手法である。
 2000年には高い効率で水を分解して水素ガスを発生させるタンタル酸ナトリウム(NaTaO3)という光触媒を日本の研究チーム(東京理科大学の工藤昭彦教授ら)が開発した。この光触媒の特徴は,母材(NaTaO3)にストロンチウム(Sr)やランタン(La)などの金属元素を数%加えると,反応の効率が一桁上昇することである。金属元素を加えると反応が活性化する要因は,添加した金属元素が同程度の大きさをもつナトリウム(Na)の一部を置き換えることにあると想像されてきたが,これを確かめる研究はこれまで十分になされていなかった。
 我々は,タンタル酸ナトリウムにストロンチウムを加えた化合物を二通りの方法(固相合成法と水熱合成法)で作成したところ,図1のように,まったく形状の異なる微粒子を得た。ラマン分光法を用いて格子振動スペクトルを計測した結果から,水熱合成法で作成した光触媒(図1左)では,予想どおりストロンチウムがナトリウムの一部を置き換えたことがわかった。一方,固相合成した光触媒(図1右)ではストロンチウムがタンタル(Ta)の一部を置換した化合物が生成した(図2)。
 光触媒に紫外光を照射して,赤外吸収スペクトルの変化を測定すると,紫外光励起した電子の量を測定できる。これを利用して2種類の光触媒の性能を評価したところ,固相合成によってタンタルを置換した化合物が,水熱合成によってナトリウムを置換した化合物に比べて,180倍量の励起電子をもつ優れた光触媒であることがわかった。15年来の定説をくつがえすこの発見が,より高効率の光触媒の開発に貢献すると期待している。

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