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非侵襲・非接触で現場の物証を回収するハイパー・フォレンシック・イメージャー早稲田大学 理工学術院 宗田 孝之

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 指掌紋は“万人不同”かつ“終生不変”であることから,犯罪の科学的立証に重要な役割を担っている。DNA型鑑定精度が飛躍的に高まってきた昨今でもその重要性は揺るいでいないけれども,指掌紋採取時に,競合して存在するDNA資料の採取との両立が求められている。また,現在用いられている粉末,液体,気体法などの指掌紋顕在化方法では,原状復帰が容易ではない。DNA採取を可能とし,かつ原状復帰の問題を不問にできる非侵襲かつ非接触な指掌紋顕在化・検出法へのニーズは高い。
 早稲田大学は,JFEテクノリサーチ(株),科学警察研究所と共同で,現場に残されたヒト由来成分,すなわち指掌紋や体液に含まれる脂肪やタンパク質(アミノ酸)を,光を用いて非侵襲・非接触に顕在化・検出でき,かつ可搬性に優れた“ハイパー・フォレンシック・イメージャー”(図1)を開発した。本装置は,宇宙から地球を観測するリモート・センシング技術の一つとして開発されたハイパースペクトル・イメージング技術が応用され,目的分子特有の反射や蛍光スペクトルなどと二次元位置情報で構成されるデータキューブ,ハイパースペクトル・データ(HSD),を短時間で計測する。
 これまでの実証試験結果は,例えば,高出力緑色レーザー励起下において,本装置で計測された蛍光HSD(図2)を用いれば,肉眼では検知できない壁に潜在する指掌紋を検出し画像化(図3(b))できるだけでなく,含まれている蛍光スぺクトルのわずかな違い(図3(e))に基づいて重複している指掌紋(図3(b))をおのおのに分離して画像化(図3(c),(d))できる場合もあることを示した。実際の現場の指掌紋が重複しているがゆえに鑑定に活用できない場合もあることから,本装置への期待は高い。本装置は,科学警察研究所を中心に実証試験を重ねてその性能を見極め,また,改良すべき点を改良し,2年後の実用化を目指す。本装置と現在用いられている顕在化法との相補的な活用は,鑑識能力の質的向上による被疑者特定・検挙数増大,その波及効果としての犯罪抑止力向上が期待できるという意味で,安全・安心な社会の実現に貢献できる。

 本研究は,文部科学省の社会システム改革と研究開発の一体的推進事業のうち「安全・安心な社会のための犯罪・テロ対策技術を実用化するプログラム」の一環として実施されている。

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