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シリコン上・超小型・超高速のカーボンナノチューブ発光素子慶應義塾大学理工学部物理情報工学科 准教授 牧 英之

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 発光素子は,現在のエレクトロニクスを支える最も基本的な素子の一つであり,新たな発光素子が一旦実用化されると基礎研究から産業界まで,新しい技術や製品の創出につながる。例えば,代表的な光技術の一つとして,光ファイバーを用いた長距離光通信技術があるが,高集積な光源技術が実現すれば,チップ内・チップ間などの光インターコネクトや光・電子集積回路といった新たな光技術が実現可能となる。しかし,現在の光源技術では,化合物半導体を母材とした発光素子が用いられているが,化合物半導体は,シリコン上への直接成長が難しく,デバイスプロセスが複雑であり,シリコンテクノロジーとの融合が難しいといった問題がある。
 最近,われわれは,カーボンナノチューブ薄膜を用いた発光素子によって,高速変調が可能な超小型発光素子をシリコンチップ上で作製することに初めて成功した(図1)。本素子は,アルコールを原料として成長したカーボンナノチューブ薄膜に電極を形成するという簡単なプロセスで作製され,通電によるジュール加熱に伴って黒体放射による発光が得られる。黒体放射は,非常にブロードな連続発光スペクトルを有しており,同様の光源としては白熱電球が知られているが,今回,カーボンナノチューブの薄膜を用いて熱を速やかに基板に逃がす素子構造を実現し,従来の金属フィラメントによる電球と比べて100 万倍以上高速となる1Gbpsでの高速変調や半値幅140psのパルス光発生の発生に初めて成功した(図2)。また,発光機構の理論的な解明も進め,理論的には10Gbps以上の高速変調が可能であることを示した1)。
 今回開発したカーボンナノチューブ発光素子は,シリコンチップ上において光変調器を用いない高集積の光インターコネクトや光・電子集積回路を実現すると期待される。また,本素子で得られる超短パルスの連続スペクトル光(白色光と呼ばれる)は,スーパーコンティニウム光源と呼ばれる大型装置(全体で長さ1m程度)以外では実現されていないことから,本素子はワンチップの白色超短パルス光源という全く新しい光源となり,マイクロチップ分析用のパルス白色光源といった,新たな原理に基づく分析装置開発等への展開も期待される。

参考文献

  • T. Mori, Y. Yamauchi, S. Honda, H. Maki: “An Electrically Driven, Ultrahigh-Speed, on-Chip Light Emitter Based on Carbon Nanotubes”, Nano Letters, Vol. 14, pp. 3277~3283(2014)

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