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科学の目で観る古代壁画情報通信研究機構*,奈良文化財研究所**,文化庁***,福永 香*,高妻洋成**,建石 徹***

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 文化財は通常の経年劣化に加え,カビ等の生物被害や温湿度変化の繰り返しによる結露や塩類の発生等,また自然災害,人間活動による破壊等のリスクに常にさらされている。人類共通の文化遺産を次世代に伝えるためには,適切な予防策を講じ,その上で,適宜必要なメンテナンスや修理を行う必要がある。文化財保護の観点から,多くの文化財には,外科的な修理を施す場合以外は,非破壊・非接触法による検診や,保存環境の改善による対処がなされる。非破壊・非接触法による検診の際には,X線からマイクロ波まで,広い周波数範囲の電磁波が様々に用いられている1)2)
 さて,人類が初めて意識的に遺した絵画は,欧州旧石器時代人らによる石灰岩洞窟に描かれた壁画であろう。以来,私達は,漆喰(石灰)等の上に絵を描く技法を連面と,あるいは断続的に引き継いできた。日本では飛鳥時代に中国大陸や朝鮮半島の影響を受けた壁画文化が盛行するが,高松塚古墳,キトラ古墳では漆喰の上に,法隆寺金堂,上淀廃寺等の寺院では白土(粘土)の上に線描,彩色がなされた。
 現在,高松塚古墳壁画,キトラ古墳壁画の保存・活用対策を検討するため,主に自然科学的手法を用いた壁画への材料・技法調査が進められている。
 図はキトラ古墳石室南壁に描かれた朱雀の部分である。美しい赤のグラデーションは,高精細で撮影したデジタル画像で拡大すると,本物に近づくリスクなく鑑賞できるが,土がのっている嘴や脚の部分はあまり明瞭ではない(a1, a2)。そこで,薄い土の下でも墨線を高感度で観察できる赤外線を用いると,古代の力強いドローイングの美しさがうかがえる(b1, b2)。
 絵画のさらに下の状態は,テラヘルツ(THz)波領域を含む電磁波パルスによる観測が有効で,内部に伝搬するパルス波が屈折率の異なる物質の界面で発生する反射波を検出することにより,漆喰 層の三次元情報を得ることができる(c)3)4)。朱雀については,断面から表面の土を押さえるための処置によって形成された層が確認でき,また表面から1mm深い位置で空洞と思われる部分が観測された。これは酢酸菌による劣化と推定されている。また,表面の凹凸もTHz波の表面での反射率の差として現れるため,壁画の下絵に使われたであろう「へら描き」も可視光より若干見やすくなる。このように電磁波は周波数に応じて,文化財の様々な非破壊調査に用いられ,保存・活用等の方針を検討するのに役立てられる。

参考文献

  1. D. Pinna, M. Galeotti, A. Mazzeo, “Scientific Examination for the Investigation of Paintings”. Centro Di, Firenze, (2009)
  2. 山本「有形文化財における科学技術の活用」,科学技術動向,69 号, pp. 22-34, (2006)
  3. D.M. Mittleman, “Sensing with terahertz radiation”, Springer, Berlin, (2003)
  4. 福永,高妻,神庭「テラヘルツイメージングを用いた壁画・屏風の非破壊調査」応用物理,Vol. 23, pp. 159-166, (2013)

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