【重要】技術情報誌『O plus E』休刊のお知らせ

ミネラル飲料中の結晶東京工業大学 半導体MEMSプロセス技術センター 松谷 晃宏

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 今回の「一枚の写真」は,硬水で知られるフランス産のミネラルウォータの中にキラキラ輝いて見える結晶である。大きな結晶の一部はペットボトルの底に沈んでいるので肉眼でも白く見え,その存在は容易に確認できる。飲み終えたボトルの底に残っている結晶を少し取り出して顕微鏡で観察すると,この写真のように花が開いたように見えるものもある。右下の白線は100μmを示すスケールバーである。キラキラ輝いたり白く見えたりするということは光学的に透明で小さな物質である可能性を示しているから,電子顕微鏡を使うよりも光学顕微鏡で観察したほうが美しく見ることができる。自然からの贈り物はまず肉眼で観察してその美を堪能するのがよい。
 さて,写真に詳しい方や顕微鏡を普段からお使いの方は,上記の説明を読んで少し疑問に思われたはずである。ご想像のように,実はこの結晶はかなりの高さがある。顕微鏡の分解能は,対物レンズのNAから求められることは本誌の読者ならよくご存知であろう。焦点深度はNA,波長,倍率を用いて求められるが,この写真の撮影に使用した10倍の対物レンズのNAは0.25 なので,撮影倍率を考慮すると焦点深度はおよそ20μm程度ということになる。つまり,結晶全体に焦点を合わせることは不可能となるわけだが,形状の特徴を良く表わす写真を数枚撮影して合成すると,この写真のようにほぼ全域に焦点の合った三次元構造を観察することができる。この写真は,焦点位置を少しずつずらしながら撮影した4枚の画像を合成したものである。撮影に使用した機材は光学顕微鏡とレンズ交換式デジタルカメラであるが,撮影の原理を理解して少し工夫すれば家庭のカメラを使っても十分に楽しめる。写真の背景が黒いのは落射照明のため。これに偏光フィルターを2枚使用して直交ニコルの状態で観察している。
 幸いにも電子顕微鏡を使える環境に身を置いているので,この花の素性をエネルギー分散型X線分光分析法で分析してみたところ,カルシウムを多く含むだけではなく,マグネシウムや硫黄なども含んでいることがわかった。なるほど,メーカーの成分表に示されているとおりである。この飲料水の中には写真のような結晶のほかにも棒状の結晶も観察できることから,ミネラル成分が多く含まれる水であることがわかった。
 身近な自然の観察からでも教わることはたくさんある。常に自然への感謝を忘れないようにしたいものだ。

※第74 回応用物理学会秋季学術講演会「第2 回JSAP PHOTO CONTEST」優秀賞作品

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