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短時間での広視野ラマンイメージングが可能に自然科学研究機構 基礎生物学研究所 時空間制御研究室*
現所属:愛媛大学 医学部附属病院 先端医療創生センター**
野中茂紀*,大嶋佑介*,**

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 ラマンイメージングとは,ラマンシグナルの画像化である。物質に光を照射したとき,分子と光子は分子内の化学結合に固有のエネルギーをやり取りする。結果,入射光の波長に対してわずかに波長のずれた光が発生する。これがラマンシグナルである。ラマンシグナルは分子の指紋であり,波長のずれと強度から分子の種類を同定することができる。この方法自体は化学分析では広く使われている。
 一方,生物学において,顕微鏡観察で細胞や組織の中での特定の分子の局在を明らかにするには,試料を蛍光物質で標識する方法が一般的である。しかし,標識の操作が煩雑である,操作自体が生体の機能を損ねかねない,すべての物質が標識可能ではないという問題がある。結果,タンパク質以外の低分子化合物を見る方法は極めて限られている。
 ラマンシグナルは分子の指紋であるから,それを見ればいいと思われるであろう。しかし,ラマンシグナルは蛍光に比べて極めて微弱である。ラマンシグナルを見る顕微鏡はすでに存在するが,共焦点顕微鏡の原理を用いた点走査であるため,画像を得るには長時間かかること,照射光によって生体機能を損ねかねないことが問題だった。
 光シート顕微鏡とは,近年脚光を浴びつつある顕微鏡法で,簡単に言うと試料の横から薄いシート状の光を照射して,厚い試料からピントの合った光学断面像を得る顕微鏡法である。この方法の良い点は,シグナルの取得効率が高く,少ない照射光で,かつ短時間で撮影できる点にある。
 そこで私たちは2つの方法を組み合わせ(図1),メダカを用い,生物個体のラマンイメージングに初めて成功した。波長可変の近赤外レーザーを用い,強いラマンシグナルを発する場所を調べたところ,グアニンを含む虹色細胞の局在と一致した。グアニンは魚の銀色のもとであり肉眼でも見えるものだが,光シートラマン観察では,まだ肉眼では見えないレベルのグアニンも可視化することができた(図2)。
 将来的に,高感度かつ高精度の計測が実現すれば,生物の発生や生命維持に関わる重要なさまざまな分子の同定や機能解析が可能となる。また,生物学の研究だけではなく,癌がん診断など医療分野への応用も期待される。

参考文献

  1. Y. Oshima, H. Sato, H. Kajiura-Kobayashi, T. Kimura, K. Naruse, and S. Nonaka: “Light sheet-excited spontaneous Raman imaging of a living fish by optical sectioning in a wide field Raman microscope,” Opt. Exp., Vol. 20, No. 15, pp. 16195~16204(2012)

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