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超高分解能光断層計測を活用し,タンパク質結晶の3次元・非破壊断層イメージングに成功名古屋大学*,大阪大学**
西澤典彦*,石田周太郎*
松村浩由**,廣瀬未果**,杉山成**,森勇介**,井上豪**,伊東一良**

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 人体は数万種類のタンパク質でできており,そのなかには疾患に関わるタンパク質が多く存在する。それらのタンパク質の立体構造を解明すれば,そのタンパク質の働きを調節できる「薬」を開発できるため,X線結晶解析によるタンパク質の構造決定が盛んに行われている。X線結晶解析はその多くのステップで自動化が成され,結晶の観察もCCDカメラ等によって自動化されてきたが,結晶の3次元イメージングや高濁度溶液中でのイメージング,また,結晶の分別は困難であった。
 筆者等は,超高分解能な光断層計測(OCT)を活用し,タンパク質結晶の3次元イメージングに初めて成功した。OCTには,超短パルス光と光ファイバーを用いて生成した,超広帯域に広がるスーパーコンティニューム光を光源に用い,高感度性と超高分解能性を両立した。また,OCTはサンプルから戻ってくる散乱光を干渉計測で検出する技術であるが,タンパク質結晶などの結晶は,原子・分子が綺麗に整列して形成されており,結晶内部からの散乱光は得られない。筆者等は,タンパク質結晶中にゲルを内包させることで,結晶内部からの散乱信号を増強し,タンパク質結晶の3次元イメージングに初めて成功した。
 図1は,タンパク質結晶の超高分解能断層イメージを表している。超高分解能性と高感度性によって,タンパク質結晶の断面形状や稜線を明瞭に高精細に観測することができた。このような断層像を等間隔に撮影し,3次元イメージを得ることができる。
 図2は,高濁度溶液中にあるタンパク質結晶の観察結果を表している。顕微鏡では観察が困難であるが,OCTでは高濁度溶液中にある結晶を明瞭に観察することができている。
 図3は,タンパク質結晶とそれに付随して生成される塩結晶の観察結果を表している。タンパク質結晶では,内部からの信号が強く塩結晶との差異が明白である。顕微鏡観察では2種の結晶の分別は困難であるが,OCTでは2種の結晶について観測信号の差異がはっきりと現れた。これは,結晶構造,ならびにゲルと結晶との相互作用の差異が観測信号の差異として現れた結果であると筆者等は考えている。
 このように,OCTはタンパク質結晶の3次元観察とスクリーニングを実現する新しい観測手法として有用である。OCTは医療分野を中心に進展してきた技術であるが,今後,材料分野・化学分野等,広い分野への展開が期待される。

参考URL

  1. Biomedical Optics Express, vol. 3, p. 282 (2012) で3D 動画を公開
    http://dx.doi.org/10.1364/BOE.3.000735

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