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赤外線の宇宙背景放射が宇宙最初の星の姿を映し出す宇宙航空研究開発機構(JAXA) 松浦周二

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 誰もが天を仰いで確かめられるように,現在の宇宙には星や銀河が点在している。しかし,太古の宇宙で初めて誕生した星々は,まだ見つかっていない。それらは,極めて遠方にあるため個別には暗く,現存の最大の望遠鏡でも直接検出できるまでには至っていない。そこで,われわれは,宇宙最初の星の集団をまとめて「背景放射(空の明るさ)」として観測することを試みてきた。個別の詳細は分からなくとも,集団の統計的な性質を調べることで,宇宙論的な情報が得られるのである。
 表紙の図1は,JAXAが2006 年に打ち上げた赤外線天文衛星「あかり」によって得られた,りゅう座の方向における,波長2.4mmの赤外線の背景放射画像である。図1(a)は元の観測画像であり,画角は天空の10 分角の大きさに相当する。点状の像は,ほとんどが遠方にある銀河で,この時点では宇宙最初の星は視認できない。図1(b)は,それらの奥深くに潜む背景放射を調べるため,手前にある銀河をマスク処理(黒い部分)した画像である。約1分角に相当する明暗のむら(ゆらぎ)が,はっきりと浮かび上がった。ゆらぎの振幅は大きく,その放射スペクトルも含めて,われわれが知るどの天体によっても説明がついていない。
 理論予測によれば,宇宙最初の星は宇宙年齢が約3 億年の時代に誕生し,強力な紫外線を発していた。宇宙膨張によるドップラー・シフトを考慮すると,当時の紫外線は現在の赤外線として観測される。また,「暗黒物質」により支配される初期宇宙の密度分布に従えば,今回観測されたような大きな角度でのゆらぎを生じる。もはや偶然ではありえない。われわれが捉えた赤外線の宇宙背景放射のゆらぎは,宇宙最初の星の性質で説明できるのである。
 われわれは,寿命がつきた「あかり」の後にも,より確かな宇宙最初の星の証拠を得るためにさまざまな研究を続けている(図2)。最も有力な証拠であるライマン・アルファ輝線を検出するため,「CIBER(Cosmic Infrared Background ExpeRiment)」と名付けたロケット実験を行っている。将来は,惑星探査機により深宇宙から太陽系内放射を完全排除した観測を行う「EXZIT(EXo-Zodiacal Infrared Telescope)」や,「あかり」の100倍もの感度をもつ次世代の大型赤外線天文衛星「SPICA」による,背景放射の精密測定を目指している。これらを用いた初期宇宙の研究により,天文学や物理学の新たな地平を切り拓けるものと期待している。

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