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蓋をするとあふれだす光早稲田大学*,分子科学研究所** 井村考平*,岡本裕巳**

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 金属の板に小さな穴をあけ,その穴に光を照射すると,光は板の裏側に通過する。穴の大きさを小さくすると,通過する光の量は減少し,さらに穴を小さくしていくと,ついに光は通過しなくなる。しかし,穴の近傍をよく見ると,伝播せずに穴にまとわりついている光,近接場光がある。
 今,穴を別の金属の板で蓋をすることを考えることにする。穴の大きさが光の波長に比べて大きい場合,穴に蓋をすると光は通過しない。では,ナノメートルサイズの穴に蓋をするとどうだろうか? われわれは,近接場光学顕微鏡に使われる微小穴と金ナノ円盤を用いてこれを確かめた(図1)。図2 は,貴金属の蓋の位置をスライドさせながら微小穴を透過する光の強度を測定した結果である。図中の点線内部は,微小穴が金ナノ円盤(蓋)で覆われている位置を示しており,蓋が穴にかぶさっている領域では強い光が透過し,かぶさっていない領域では透過光が弱い。金ナノ円盤がかぶさっている部分では,かぶさっていない部分と比べて光の強度が約2 倍になっている。つまり,図2は微小穴に蓋をすると通過する光が強くなることを示している。
 では,どうしてこのようなことが起こるのだろうか。鍵となるのは,近接場光と金ナノ円盤に励起されるプラズモン(自由電子の集団電子振動)である。微小穴の近傍では,近接場光が局在している。穴に金ナノ円盤が近接すると,円盤のプラズモンが近接場光により励起される。励起されたプラズモンは,フェムト秒の時間スケールで緩和し,その過程で光を外部に放出する。つまり,プラズモンは近接場光を効率的に伝播光へと変換することができる。ナノの穴を貴金属の板で蓋をしたときに通過する光強度が大きくなるのは,近接場光のプラズモン励起とその輻射緩和により説明される。
 通過する光の強度を大きくするためには,円盤のプラズモン共鳴を効率的に励起する必要がある。円盤のプラズモン共鳴は,円盤直径(正確には,直径/高さ)に依存し,直径の増大とともに長波長側へシフトする。直径50 ~ 200nm,高さ35nm の金ナノ円盤では,可視から近赤外域にプラズモン共鳴を示す。われわれはこれまでに,円盤の直径の増大とともに透過光強度の増強度が大きくなることを見いだし,最大で約5 倍の増強度を達成している。プラズモンによる近接場光と伝播光の相互変換(光アンテナとしての機能)は,光エネルギーの効率的利用やナノ光デバイスに広く活用されることが期待される。
 本稿で紹介した内容は,北海道大学三澤弘明教授,上野貢生准教授との共同研究による成果であり,アメリカ化学会の発行するナノサイエンスの専門速報誌「Nano Letters」に掲載されたものである。

参考文献

  1. K. Imura, K. Ueno, H. Misawa, H. Okamoto:“Anomalous Light Transmission from Plasmonic Capped Nano-Apertures,”Nano Lett., Vol. 11, pp. 960 ~ 965(2011)

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