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むりかぶし望遠鏡,彗星の崩壊を捉える国立天文台 石垣島天文台 宮地竹史

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 国立天文台は今年4月,日本の最南端のエメラルド・グリーンの海に浮かぶ八重山諸島の一つである石垣島に石垣島天文台を建設した。むりかぶし望遠鏡は,この天文台に備え付けられた光学・赤外線望遠鏡である。
 「むりかぶし」とは,一般公募で選ばれた望遠鏡の愛称で,漢字では「群星」と書き,プレアデス星団「すばる」のことで,八重山諸島ではこうよばれる。むりかぶし望遠鏡の有効口径は,九州沖縄では最大の105cmである。ハワイ山頂のすばる望遠鏡の8mの口径と比べれば小さいが,天文ファンには「小さなすばる」と親しまれている。
 「すばる」と同じ反射望遠鏡で,架台は経緯台方式である。主鏡は超低膨張ガラス(アストロシタールCO115M)を使用し,光学系は収差を押さえ視野内の星像に歪みを極力抑えるために,リッチー・クレチアン光学系を採用した。主鏡焦点距離は2520mm,合成口径比はF12で,焦点はカセグレン焦点と左右のにナスミス焦点の3ヶ所ある。カセグレン焦点には視野回転装置があり,天体撮影用に冷却CCDカメラが,ナスミス焦点には観望用のアイピースが取り付けられている。
 望遠鏡の天体追尾や観測機器は,コンピューターで制御される。また,ディスプレイには,時々刻々と現在時刻の石垣島で観測できる星々の星座早見が表示され,マウスを使って観測したい星にカーソルをあて,クリックすると,望遠鏡が自動的にその星を捉え,追尾を始めてくれる。天体ドームの直径は8mで,小学校の一クラスの子供達が入れる大きさである。また駐車場から望遠鏡まではバリアフリーとなっており,車椅子に乗ったまま天体観望ができる。
 地球大気の揺らぎは,天体の長時間観測の際に,画像を乱し不鮮明なものにしてしまう。石垣島はジェット気流の南側,貿易風の影響の少ない北回帰線の北側に位置しており,大気がとても安定で,古くから「星は瞬かず,空に張りついたように見える」と言われている。また本土より梅雨明けが早く,夏の晴天率も高い。このようなことから,惑星科学や天文学の研究,一般市民への天文学の広報普及という役割をもつ天文台として建設された。
 石垣島天文台の完成を待っていたかのように出現したのが,シュヴァスマン・ヴァハマン第3彗星であった。この彗星は,周期5.4年であるが,1930年に発見された後,行方不明になり,1978年に約30年ぶりに再発見された。また1995年には,彗星頭部の核が大分裂を起こし注目された。今回も40個以上に分裂して地球に接近するといわれていた。
 このため,石垣島天文台では,5月の連休を返上してこの彗星の撮影に挑んだ。今年は天候が不順であったが,この春赴任した研究員の黒田大介君が晴れ間を見ては,冷却CCDカメラで撮影を続けてくれた。撮像データは,ただちに研究技師の福島英雄君が画像処理をしてくれた。その結果,むりかぶし望遠鏡はこの彗星のB核が崩壊していくようすをみごとに捉えた。それが,この「一枚の写真」である。5月3日には,バーストを起こし明るく輝き,ガスやチリが噴出し,頭部から分裂した欠片が飛び出している。これだけ鮮明な画像は国内では最初で,新聞や天文台のホームページで公開された。
 むりかぶし望遠鏡では,現在一般公開,星空観望会をおこないながら試験観測を行い,「あれい星雲」の愛称をもつ惑星状星雲M27,「子持ち銀河」と呼ばれる系外銀河M51などの天体を次々に観測し,天体の細かな構造や微妙な濃淡までを鮮明に捉えている。その画像は1mクラスの望遠鏡で撮ったとは思えないものである。石垣島の星空のすばらしさとむりかぶし望遠鏡の105cmの口径とがうまく組合わさって,その威力を発揮している。
 4月のオープン以来,この5ヶ月で7,000人を越える市民や観光客が天文台を訪れてくれた。自分の目で直接見た土星の輪や木星の縞模様などに感動しているのを見ると,石垣島に天文台を作って本当に良かったと思う。

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