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光の指紋?!京都大学 科学技術振興事業団 下間靖彦・平尾一之・邱建栄

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 1916 年にアインシュタインが誘導放出の理論を発表し,レーザーの可能性を指摘した。その後いろいろな理論的考察と実験が行われ,1960 年,米国のメイマンは,ルビーの結晶を用いたレーザー発振に世界ではじめて成功した。レーザーは,20 世紀における最大の発明の一つであり,現在ではなくてはならない技術である。最近流行の“ナノテク”の分野においても,レーザーは大活躍している。例えば,波長が数10nm という極短紫外線レーザー露光技術や,パルス幅がフェムト秒以下という超短パルスレーザーによる超微細加工技術などが挙げられる。
 われわれは,フェムト秒レーザーを利用したさまざまな研究を行っている。例えば,このレーザー光をガラス等の透明な材料内部に集光照射して,集光点近傍のみにレーザー光と物質の非線形相互作用を誘起させることによって,光集積回路や書き換え可能な超高密度3 次元光メモリーなどの作製に成功している。これらは,フェムト秒レーザーのパワー密度が,集光点近傍でTW/cm2 以上に達するため,多光子吸収や多光子イオン化などの非線形現象の賜物である。また2 本以上のフェムト秒レーザーを干渉させて,物質の表面や内部に干渉パターンに応じたグレーティングを形成するという研究も行われている。
 最近,われわれはシングルのフェムト秒レーザービームで,その集光点近傍に偏光依存のナノスケールの周期構造が形成されるという現象をはじめて見出した。写真は,石英ガラス内部にフェムト秒レーザーを集光照射し,その集光点近傍の深さまで研磨した後の表面におけるSEM の反射電子像である。2 次電子による表面観察では,明確な変化が見られなかったのに対し,反射電子像では,集光点近傍に約200nm 間隔の縞模様が観察された。さらにオージェ電子分光による酸素とシリコンのスペクトルマッピングの結果から,集光点近傍は,酸素欠陥が縞状に導入されていることが判明した。またこの縞模様は,照射レーザー光の偏光,エネルギーなどの諸条件に応じて方向・周期間隔を制御することが可能であることも確認した(特許申請済み)。この周期構造の形成メカニズムは,レーザー光とレーザー光により誘起された集光点近傍に発生した縦光学モードのプラズマ波との干渉であると推測している。
 形状がひとの指紋に非常によく似ているこの“光の指紋”は,フェムト秒レーザーがつくりだした摩訶不思議なナノワールドの一側面である。

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