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内部に電気をためられる太陽電池を開発 ― 光強度変化による出力変動を緩和し暗所使用も可能な「蓄電機能付き色素増感太陽電池」―東京大学 瀬川浩司

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 わが国で太陽電池パネルの大量導入を円滑に進めるためには,太陽光発電で生じる昼間の余剰電力を系統に流す場合に生じる過大な逆潮流やその変動の抑制,また,夜間の電力を系統に頼らずにすむように蓄電などを行う必要が生じる。そもそも,太陽電池は電力を「生産」する装置であり,電力を蓄える「電池」ではない。このため太陽電池出力は天候に左右され,光強度に依存して大きく変動し,ローカルな日照条件によっても小刻みに出力変動が加わる。これは,太陽光発電で得た電力を系統に流す上で障害となるが,その抑制のためだけに,高価な太陽電池にさらに高価な二次電池を組み合わせるのはあまり良い方法とはいえない。この「蓄電」という観点では,有機系太陽電池の一つである色素増感太陽電池が持つ「光エネルギーをいったん化学エネルギーに変換した後に電気エネルギーに変換する」という独特な機構を利用すれば太陽電池そのものに二次電池機能を付与することが可能になる。われわれは,太陽電池そのものに電気を蓄えられる「エネルギー貯蔵型色素増感太陽電池」(Energy Storable Dye Sensitized Solar Cell,ES-DSSC)を開発した。
 ES-DSSC(図1)は,TiO2ナノ粒子をFTO電極に焼結しRu色素を吸着させたものを光アノードに用いている。光アノード側の電解質溶液は,ヨウ素レドックス(I-/I3-)を使用し,対極にはPtメッシュを用いている。電荷蓄積電極には,TiO2光アノードからの電子を有効に蓄えられる電位を持つ材料として,ポリピロール(PPy)や酸化タングステン(WO3)などを用いる。この電荷蓄積電極は,カチオン交換膜により色素増感太陽電池を構成する光アノードと対極から隔てられている。このカチオン交換膜があることで,電荷蓄積電極で還元された蓄電材料(PPyやWO3)は色素増感太陽電池部分のヨウ素レドックス(I-/I3-:どちらもアニオン種)により酸化されることなく還元状態が維持される。光照射によって生じたエネルギーは,ヨウ素レドックスの酸化還元電位E(I3-/I-)と蓄電材料の酸化還元種の酸化還元電位E(redox)との差分の化学エネルギーに変換され貯蔵される。セルに光が当たらなくなった時は,蓄電材料にたまっている電子が放出されることによりバッファー的な機能が働き出力は維持される。光照射強度が変動しても,負荷に対して電子が流れる方向は変わらないため,出力安定化が可能になる。また,光照射時に負荷がある状態では,太陽電池出力しながら蓄電もできる。暗時に負荷がある場合,電荷蓄積電極にたまっている電子が負荷を通って対極に流れ出力できる。
 これまで,さまざまなセル構造(表1)について検討したが,図1の写真のものはI型である。NafionをPPy/ステンレスメッシュに被覆した電荷蓄積電極を用いたII型では,特性を飛躍的に向上させることができた。さらに,Nafionカチオン交換膜をPPy/ステンレスメッシュに薄膜コーティングした電荷蓄積電極を用いたIII型では,光充電後の放電電気量と開回路電圧が向上し,充/放電速度も非常に速くなった。このほか,対極と電化蓄積電極を一枚の電極上に“くし形”に配置したIV型も作ることができる。一方,ホールを貯蔵する材料として,導電性高分子の一つであるポリアニリンを用いたV型では,メッシュ電極を使わずすべて平板電極にしてあるため,大面積化が容易になる。これらのエネルギー貯蔵型色素増感太陽電池をモジュール化すると,モジュール全体の稼働率が上がるなどの有用な機能が見られる。

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